プレッシャー

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プレッシャー

「闇獣の世話係……」  闇獣。……私たちの世界にある国には、それぞれ国に恵みをもたらす存在がある。私の祖国では、聖花で、魔国では闇獣だ。 「俺の代の闇獣は、変わり者で、話した通り、音楽を好む」 「……なるほど」  闇獣は聖花と違って、必ずしも音楽を好むわけではない。  たしか、食事を好む闇獣もいたと聞いている。 「この城では、音楽に素養がある者は少なくてな。……聖花があるアドルリア国なら、良き世話係になる者がいるのでは、と思って探していたのだが」  そこで、私と出会った、ということね。 「ラファリア、あなたと出会えて僥倖だった。どうか、引き受けてくれるか?」  輝く金の瞳は、真っ直ぐに私を見つめている。  ——私は、マーガレット様にはなれないけれど。  それでも、いつか。誰かに選ばれるような私に変わりたい。  もちろん、新しい地で新しい仕事をしたところで、私自身が努力しないと意味がないのはわかってる。  でも、環境が変わることは、きっと、私にいい影響を与えると思うから。 「はい。お受けします」  大きく頷き、ガロンさんを見つめ返す。ガロンさんの瞳が、ゆっくりと細められ、唇が弧を描く。 「ありがとう」 「これから、よろしくお願いいたします」 「あぁ。こちらこそ、よろしく頼む」  ぎゅっと、手を握る力を強くされ……ん?  そこで、視線を手元に戻す。そうだ! さっき、慌てた私を落ち着かせようとガロンさんに手を握られて、ずっとそのままだった。 「あ、の……」  心拍が急に速くなる。手汗、かいていないかしら。  ……というか、いつまでこの手は握られるのかしら。 「っ!? ……あ、あぁ、悪い!」  私の視線に気づいたガロンさんが、慌てて手を離す。 「いえ……」  なんとなく、気恥ずかしい空気が、流れる。  私がなんと言ったらいいのか分からず、途方に暮れていると、廊下の先から人が見えた。 「陛下!」  片眼鏡をかけていて、神経質そうな顔をしているその人は、ガロンさんに向かって走ってきた。 「あぁ、マギリか」  彼はマギリ、という名前なのね。  マギリは、ガロンさんの前まで立つと、はぁ、と大きくため息をついた。 「あぁ、ではないですよ、陛下!! この度雇った、音楽師もまーったく、闇獣のお気に召しませんでした! このままだと、我が国の繁栄は……」  そこで、マギリは言葉を止め、私を見た。  新緑色の瞳と目が合う。 「陛下が女性を連れられてるー!?!?!?!?!?」  瞳がかっ、と開かれたと思うと、マギリはそう叫んで泡を吹いて倒れた。 「だ、大丈夫ですか?」  慌てて、手を伸ばそうとしたけれど、ガロンさんがそれを制した。 「心配ない。マギリは三徹目だからな、このまま寝かしておこう」  三徹目!?!?!  それもすごいけれど……廊下だと風邪をひくんじゃないかしら。 「あぁ、そう心配そうな顔をするな。マギリは、徹夜で仕事をするのが趣味だ。とはいえ、このままはさすがにまずいか」 「……そう思います」  ふかふかな絨毯だから、怪我はなさそうだけれど、やっぱり休むならベッドで眠ったほうがいいだろう。 「仕方ない、運ぶか」  おそらく魔法でマギリを宙に浮かせると、そのままふよふよと廊下を進んで行った。 「……自室まで運んでおいた」 「……よかったです」  これで一安心だわ。 「ところで、ガロンさん」 「どうした?」 「先ほどの音楽師とは……」  どんな音楽師だったのか気になる。  私は、闇獣に気に入られる必要があるから、その得意な楽器や音楽を聞いておくことは、今後の参考になるだろう。 「あぁ、それなら気にしなくていい。あなたなら、きっと闇獣も気にいる」 「!?」  それは、大変ありがたい評価だけれど……、逆にプレッシャーと言うかなんというか。 「大丈夫だ。先にあなたの部屋に案内しようと思ったが、そうだな……。闇獣に会いに行くか」
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