いかがでしょう

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お風呂から上がった後、髪を乾かしてから、ユグに防音室はないかと尋ねる。 「防音室は、そちらに」  ユグが指し示したのは、私に与えられた部屋の中だった。 「え、ここですか……?」  部屋内を探検したとき、部屋の中に小さな部屋があり、何に使うのか、と疑問に想ってはいた。この扉重そうだな、と思ってはいたけれど、まさか防音室だなんて。 「はい」  ユグは大きく頷く。  ……そうか、アギノの世話係は、音楽の練習を必要とするものね。  だから、私……アギノの世話係に与えられた部屋には防音室もついていたのだろう。 「ありがとうございます、ユグ。さっそく、使わせていただきます」 「ごゆっくりどうぞ」  荷物の中から、楽器……何にしようかと考えて、一番得意なバイオリンを出した。  基礎練習から初めて、少しずつ、短い曲から長い曲に変えていく。  でも、聖花の反応は、私自身で歌った時が、一番良かったのよね。  アギノは、どんな楽器が好きかしら。  アギノも聖花も、国の繁栄の象徴とはいえ、アギノは、聖花よりも好みがはっきりしてそうだ。  今日歌った様子だと、私自身でも、反応は悪くなかった。 だったら、喉のトレーニングもしておいたほうがよさそうね。  ……よし、やろう。 ◇◇◇ 「……ふぅ、こんなものかしら」  一息つこうと楽譜を置いて、窓を見ると、すっかり日が落ちていた。 「リア様……、ラファリア様!!」 「ユグ? 今開けますね」  どんどん、と強く扉を叩かれているのに驚きつつ、防音室の扉を開けると、ユグが心配そうな顔をして立っていた。 「ラファリア様、大丈夫ですか?」 「え? ええ、しいて言うなら、高音がもう少し安定してでると……」 「……いえ、ラファリア様の素晴らしい喉の調子ではなく。もう何時間もずっと、休憩せずに、励んでらっしゃるから……」 「? そうかしら」  花奏師だった頃は、こんなの当たり前だったし、何時間も防音室にこもっていたって、心配する人はいなかった。 「そうですよ! 素晴らしい集中力ですが……心配です」  そうか、防音室にずっとこもっていると心配されるのね。  ……勉強になったわ。 「心配かけてごめんなさい、ユグ。丁度少し、休憩しようと思っていたの」 「……よかった」  ほっと、安心した顔に、思った以上に心配をかけてしまっていたんだと気づく。 「ごめんなさい、今度からもう少しこまめに休憩をとりますね」 「はい。ありがとうございます」  ユグに、温かい紅茶を淹れてもらって、少しお話しする。 「そういえば、マギリにはもう会われましたか?」  ……マギリ。そういえば、アギノと会う前に、出会ったひとがいた。 「片眼鏡をかけている方ですか?」 「そうです! マギリは私の夫なのですが……」  え、夫!? ユグは、若く見える……少なくとも私よりは若そうだけれど。もう結婚しているのね。 「そうなのですね」 「はい。もうすぐ、結婚して十年になるというのに……。いつも徹夜で仕事をするへんた……仕事熱心さが治らなくて」 「えっ」  十年? あれ、おかしい、計算が合わないわ。  私の中で大量の?マークが浮かぶ。 「仕事に熱心なのは大事ですが、ラファリア様も、あんな風にならないでくださいね」 「えっ……ええ。気を付けます」  頷きながら、ユグはいったい何歳なのか、とても気になる。 でも、女性に年齢を尋ねるのは失礼だろうし、やめておくことにする。 「ラファリア様は、ご結婚はされていないのですよね」 「はい」  私の左手の薬指を見ながら、問われた問いに、頷く。 「故郷に、恋人を残されたり……」 「恋人もいません」  苦笑しつつ、頷くと、ユグは目を輝かせた。 「でしたら、陛下などいかがでしょう!」
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