頼みます

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「そ、れは……ユグがガロンさんにとって近しい存在だからでは……?」  近すぎて意識しない。そんなこともあると思う。 「……全くその可能性がないとは言えないが」 「そうでしょう?」  大きく頷いて見せる。  それでもガロンさんは、だが……とか、いや、とか何かを言いかけていたけれど。  朝食が運ばれてきたことにより、あなたのいう通りかもしれない、と納得した。  ……朝食はとっても、美味しい。  つやつやのパンに、温かなスープ、シャキシャキのサラダに、ふわとろのオムレツ。  朝食を口に運んでいると、ガロンさんに話しかけられた。 「……ところで、ラファリア。昨夜は、眠れたか?」 「はい。おかげさまで、とてもよく眠れました」  会話が、先ほどのものを引きずっていないことに安堵しつつ、頷く、 「そうか……良かった。アドルリアのあなたの生家に、使いを出そうと思うが、いいか?」 「使いですか?」  ガロンさんは私を見つめた。 「あぁ。あなたがこちらで正式に働くことを伝えようと思ってな」  そういえば、私の実家——トドリア侯爵家には、花奏師を辞めることと、まだ他の誰とも結婚する気はないこと、家には戻らないことくらいしか伝えていなかった。 「はい、よろしくお願いいたします」  魔国の魔獣の世話係になったことは、驚かせてしまうだろうけど。ちゃんと仕事が決まったことは伝えたほうがいいだろう。 「ありがとう」  ガロンさんが、ふっと微笑む。また星が飛び散って見えた。  眩しさに目を細めながら、首を傾げる。 「なぜ、ガロンさんが、お礼を……?」 「あなたがこの国で働いてくれることが、嬉しい」 「! いえ、その……私も嬉しいです」  魔国という新しい場所に、私の居場所をくれて。 「……よかった。一晩経って考えが変わっていたら、どうしようかと不安だったから」  ガロンさんはそう言って、嬉しそうに微笑む。 「これから、よろしくお願いします」 「こちらこそ、よろしく頼む」  ——それからの朝食会は、穏やかにすぎた。  朝食会を終えると、ガロンさんが正式に紹介したい人がいる、と言ったので、ひとまずガロンさんの執務室まで行くことになった。  ガロンさんの執務室に着くと、そこで待っていたのは、黒髪に緑の瞳、そして片眼鏡をかけた男性——マギリだった。  ユグの旦那様でもあるマギリは、昨日私とガロンさんがいるところを見て、泡を吹いて倒れてしまったのよね。 「昨日は、お見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ございませんでした。マギリ、と申します。世話係殿」  深く腰を折って、顔を上げたマギリは、昨日よりは体調が良さそうだった。 「いいえ。改めまして、ラファリア・トドリアと申します」  マギリのことをなんと呼んだらいいかわからず、あえて名前は言わずに微笑む。 「私のことは、どうか、マギリ、と」  マギリはそう言って微笑んでくれた。……察する力が高いのね。  さすがは、ガロンさんの側近だわ。 「わかりました。よろしくお願い致します、マギリ」  手を差し出し、握手する。 「ところで、陛下と世話係殿はどちらで、出会われたのですか?」 「あぁ……アドルリアの酒場です」  そこまでは、話してなかったのね。  ちらり、とガロンさんを見ながら、答える。 「……酒、場?」 「あぁ、聖花を有するアドルリアなら、良き世話係が見つかるのではないかと、思ってな。そこで、彼女——ラファリアと出会った」  小さく頷き、マギリは私とガロンさんを交互に見つめた。 「ところで、どちらから、声を……?」  なんで、そんなことを気にするんだろう?  まぁ、でもわざわざ隠す必要もないわよね。 「頼むお酒を迷っていたところで、ガロンさんから声をかけていただきました」 「ほうほう、なるほど……うちの陛下から…………え!?」 「え?」  マギリは、体をのけぞらせて驚いたけれど、そんなに変なこと言ったかしら。 「世話係殿!」  急にまた、握手は終わったのに、がしりと手を握られる。 「陛下のことを、よろしく、よろしく頼みます!」  えぇ!? アギノじゃなくて……!? 「あ、闇獣のことも頼みます」 「は、はい。頑張ります……?」  アギノは、闇獣のはずなのに、なぜかついでのように言ってるけど、いいの!? とりあえず、頷いて見せる。 「はー、ようやく、肩の荷がおりました」  マギリがほうっと、大きく息を吐く。 「あぁ、アギノもラファリアのことを気に入ってるからな」  ガロンさんの言葉に納得する。 なんだ、そっか。マギリは、アギノの世話係を探して苦労していたのだろう。 だから、肩の荷が降りたってことよね。 別に、ガロンさんがどうとかは、関係なく。 「そのようですね。もう、鈴をお渡しになったのもその証拠でしょう」  ……鈴。  昨日もらった、闇獣の世話係の証であるバッヂを撫でると、鈴が音を立てた。 「ところで、世話係殿。……闇獣に今日は何時ごろ会いに行かれる予定ですか?」 「そうですね……、この後行こうかなと考えています」  でしたら! と瞳を輝かせ、マギリは私を見つめた。 「私も同行してもよろしいですか?」
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