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好み
◇◇◇
——その日の夜。お風呂から上がった後、髪を乾かしてから、ベッドに転がる。
「……はぁ」
大きく息を吐き、深く吸う。
何度か繰り返していると、だんだんと眠気がやってきた。
ふと、手を枕元に伸ばせば、先ほどガロンさんから貰った、サシェが触れる。
サシェを手繰り寄せ、その香りを嗅ぐと、ほのかに甘いいい香りが鼻腔をくすぐった。
「私……頑張らなきゃ」
私の決意に応えるガロンさんであろう、魔国であろう、とガロンさんは言ってくれた。
だからこそ、その決意が揺らぐことのないように。
……でも。
聖花たちのことを想うとまだ、胸がじくりと痛む。
サシェの香りを嗅ぐと、その痛みが少し和らいだ。
「……ふふ」
さすがは、魔王陛下特製のサシェだ。
何度か香りを嗅いでいると、さらに眠くなってきた。
明日、もう一度ガロンさんにお礼を言おう。
それに、アギノに聞かせる演奏は、明日はどんなのにしよう。
それから、それから……。
楽しみな明日を思い描いているうちに、いつのまにか、意識を手放していた。
——夢も見ないほどぐっすり眠れた、翌朝。
「おはようございます」
「ユグ、おはようございます」
ベッドでごろごろしていると、ユグが起こしにやってきた。
「……ふ」
ユグが私を見て、小さく笑う。
「? ユグ?」
「……いえ。ラファリア様、とてもよく眠られたようですね」
ユグが指さしたのは、私がずっと握りしめていたサシェだ。
「!!!」
な、なんかすごく恥ずかしい。
「はい、よく眠れました……」
それはもう、ぐっすりと。
「良かったです」
ユグが微笑む。
それにつられて、私も笑った。
「ありがとうございます、ユグ」
——今日もいい日になりそうだ。
「ところで、ラファリア様」
朝の支度を手伝ってもらっていると、ユグが鏡越しに私を見つめていた。
「はい」
「あの、これは私の個人的な、お願いなのですが……」
「?」
どうしたんだろう?
「ラファリア様の髪型、今日は変えてみてもいいですか?」
私はいつもそこまで凝った髪型はしていない。
「はい。それはもちろん」
頷きつつ、鏡越しにユグを見ると、ユグは、嬉しそうに頬を染めた。
「ありがとうございます! ラファリア様はとても綺麗な髪をされているので、様々な髪型を試してみたいと思っていて……」
「ふふ、ありがとうございます」
褒められるのは、素直に嬉しい。
「では、早速取り掛かりますね!」
ユグが素早く丁寧に髪を梳かして、私の髪型を整えていく。
その様は、圧巻だった。
「……こちらでいかがでしょうか?」
「わぁ!」
今日、ユグがしてくれたのは、簡単にいうと編み込みだった。
闇獣の世話係の制服に合わせて、薄紫のリボンも一緒に編み込まれていて、とっても素敵だ。
「ありがとうございます、ユグ。とってもかわいいです」
リボンを一緒に編み込む、という発想は私にはなかった。だから、とても新鮮だ。
「気に入っていただけて良かったです」
ユグが嬉しそうに微笑む。
「ところで、朝食ですが、今朝も陛下からのお誘いがありますが、いかがなさいますか?」
……ガロンさんに改めてお礼を言ういいチャンスかも。
「お受けしてください」
「かしこまりました。では、そのようにいたしますね」
支度を終え、朝食会が行われる食事の間に行く。
今日もガロンさんはもう席に着いていた。
「おはようございます、ガロンさん。お待たせいたしました」
「あぁ、おはよう」
ガロンさんは、私の顔を見て、ほっとしたように息をついた。
「……良かった。昨夜、眠れたようだな」
「はい。ガロンさんのサシェのおかげです。ありがとうございます」
お礼を言ってから、私も席に座る。
「今日の髪型も……似合ってる」
「!」
そういえば、宿を出る時、髪型を変えたときもガロンさんは気づいてくれた。
細かな変化に気づく人だなぁ。
「ありがとうございます。ユグがしてくれたんです」
今日も眩しいガロンさんに目を細めつつ、お礼を言う。
「そうか。……ユグとの仲も問題なさそうだな」
「はい! ユグはとてもよくしてくれています」
……と、そんな話をしていると、朝食が運ばれてきた。
今日の朝食もとっても美味しそう。
「ところで」
ガロンさんは、そこで言葉を止めると、私を見つめた。
「はい」
急に切り出された話題の続きが気になり、朝食を食べていた手を止める。
「あなたは、どういった男が好みなんだ?」
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