鈍感

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鈍感

「……え?」  男性の好み……つまり、好きなタイプってこと!? 「昨夜、そんなことを考えていたら、眠れなくてな。……あなたに直接聞いた方が早いかと思って」  私に聞いた方が早いのはそうかもしれないけれど……。 「ガロンさん寝不足だなんて、大丈夫ですか?」  ガロンさんは相変わらず眩しく、クマひとつ見当たらないけれど。 「あぁ。俺は少々寝なくても、頭は回るタイプのようだ」  そうなんだ。すごい。 「ところで話を戻すが……」 「そもそも、なぜ、そんなことが急に気になったのですか?」  部下の男性の好みを把握するのは、必ずしも必要とは思えないけれど。 「それは、その……あなたが、以前話してくれただろう? 失恋して、花奏師をやめたと」 「!」  そうだった。ガロンさんとお酒を飲んだ時に、そんな話もした気がする。  もしかして、心配されてる? 私がアドルリアに戻らないかって。  それなら……。 「あなたの決意を忘れたわけじゃない。ただ……あなたが恋をした男がいるのだと、そのことを思い出すと、嵐の前に立ち尽くしているような気持ちになる」 「!?」  えっ、それってどういうこと!?!?  まるで甘さを含んだかのような言葉に、戸惑い、思わずフォークを取り落とした。  給仕の人が新しいフォークをさっと置いてくれる。ありがとう、とお礼は言ったけど、全く感情はこもっていない。  だって、ガロンさんが唐突にそんなことを言い出すから。 「……思うに、俺はおそらく——」 「ちょ、ちょっと待ってください!」  ガロンさんは何かを言いかけたけど、それを遮らせてもらう。 「ガロンさん、ガロンさんが不安に思う気持ちはわかります」  私はまっすぐガロンさんを見つめた。 「私がまたその人に対しての恋愛感情を思い出して、国に帰る可能性がありますものね」 「いや、俺は……」 「ですが! ご安心ください。 今は、仕事が楽しいので」  本当だ。  アギノにどんな曲を聴かせようか考えるのは、毎日楽しい。 「だから、この国を去ったりしません」  私が安心させるように頷くと、ガロンさんは、首を傾げた。 「俺は……それが不安だったのだろうか」 「おそらく、そうではないかと。……気にかけてくださってありがとうございます。昨日のサシェもですが、とても嬉しいです」  そう言って微笑むと、ガロンさんは顔を顰めた。 「ガロンさん?」 「いや、なんだか動悸がして」  ど、動悸!?!?!? 「やっぱり、寝不足なのが、体に負担がかかったのでは」 「……そうかもしれない」  心配だ。  早く、朝食会を切り上げて、寝てもらった方がいい。 「だからあなたの歌を、今日は俺も聴かせてもらっても、いいだろうか?」
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