おかしなアギノ/最善策

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おかしなアギノ/最善策

「もちろんです」  マギリも元気になってたし、私の演奏は寝不足にも効くはずだ。 「ありがとう」  ガロンさんが柔らかく微笑む。 「い、いえ……」  なぜか、私も動悸がした。  寝不足ではないはずだけど……、ガロンさんの輝きに当てられたのかしら。  首を傾げつつ、朝食を再開する。  ——その後の朝食会は、和やかに過ぎた。 「アギノ、入るぞ」  アギノの部屋の前まで行き、ガロンさんが扉をノックする。 『えー、ガロン何か用事? ラファリアは?』 「彼女も一緒だ」 『ならいーよ』  入室の許可が出たので、ガロンさんと共に、アギノの部屋の中に入る。  今日のアギノは、高級そうなソファの上で、丸まっていた。  でも、私たちが近づくと、勢いよくソファから、飛び降り、私たちのほうへ駆けてくる。 『おはよ、ラファリア。……ついでに、ガロンも』 「はい。おはようございます、アギノ」 「あぁ、おはよう」  アギノは、私の足元に体をこすりつけた。 「……ふふ」  くすぐったい。  しゃがんで、アギノの頭を撫でると、アギノは嬉しそうに尻尾を揺らした。  恥ずかしがられないのは、慣れてくれたのかも。  なんだか、嬉しい気持ちになりつつ、アギノを撫でていると、アギノがすんすんと私の周りの香りを嗅いだ。 『ふーん?』  そして、ちらりとガロンさんを見る。 「アギノ、どうしましたか?」  また聖花の香りが薄まったのかしら。 『ガロンの魔法の匂いが、ラファリアからする』 「ああ、なるほど」  それなら、昨日もらったサシェだろう。私がサシェについて説明すると……。 『ふーん、やるじゃん、ガロン。まぁ、自覚はないみたいだけど』 「アギノ?」  アギノの言葉に、私とガロンさんは首を傾げる。 「自覚がないとは、なんのことだ?」 『べっつにー。……竜夢除けになればいいけど』  竜夢除け? どういうこと?  アギノの言葉に更に私たちは、首を傾げた。 『そんなことよりさ、ラファリア、今日はどんなの聴かせてくれるの?』  アギノは、きらきらと瞳を輝かせて私を見た。 「そうですね……」  今日は、どんな曲にしようかと昨夜からずっと考えていた。 「……こんなのはどうでしょう」  私は、立ち上がり、息を吸い込んだ。   今日の天気は、あいにく、雨だ。  だから、今日の私が歌うのは、雨のように音の粒が降り注ぐ曲。  始めは、ぱらぱらと、次第にざあざあと勢いよく降り、最後にはまた弱くなり、濃かった雨雲から少し青空が覗くような、そんな曲。  魔国の繁栄とアギノのお腹が満たされることはもちろん、今日はガロンさんの体調がよくなることも願いながら、歌う。  最後の一節を歌い終わり、目を開ける。  すると……。 『ほんとうに、晴れちゃった!!!』  アギノが嬉しそうに、私に飛びついてきた。アギノを慌てて受け止める。  そう言われて窓の外に視線を向けると、確かに雨は止み、分厚かった雲の切れ間から、青空が見える。 「!!」  きっと偶然だろうけれど、何だか、嬉しい。  ガロンさんの体調は、どうかな。良くなっただろうか。  そう思い、ガロンさんを見ると……。 「……すごいな、あなたは」  ガロンさんは、また一昨日のように涙を流していた。 「ガロンさん!?」  ど、どどどどうしよう。  男の人が泣いてるときって、どうしたらいいんだっけ。  戸惑いつつ、そっと、ハンカチを差し出す。 「……ありがとう」  ガロンさんは、そっとハンカチで涙をぬぐうと微笑んだ。 「なぜか、あなたの歌を聞くと、懐かしい気持ちになる。まるで、ずっと昔から、あなたと共にいたような」  感動してくれた……ってこと、よね? 「それは光栄です。体調は、どうですか?」 「あぁ。おかげで、さっきよりも、頭がすっきりしている。……ありがとう」  よかった。そのために、わざわざガロンさんも今日は同行してもらったのだから、効果があって安心する。 『……ふぅん、懐かしい、かぁ』  アギノは、窓の外を見ながら、ぽつり、と零した。 「アギノ?」  なんだかさっきからアギノの様子が変な気がして、アギノの頭を撫でる。 『! まぁ、ともかく、さすがはボクの世話係ってことかな!』  アギノは少し照れくさそうに尻尾を振りながら、私を見上げた。 「アギノもお腹は満たされましたか?」 『うん。少し眠くなっちゃった。ねぇ、ラファリア……』  アギノは私の腕の中で、丸くなった。 「アギノ?」 『ボクが眠るまで……そばにいてくれる?』  とっても可愛らしいお願いに、私は、もちろん、笑顔で頷いた。 ◇◇◇ (花奏師長視点) 「……っ!!」  まずい。まずいことになった。  昨日、竜王レガレス陛下の元から帰ったマーガレットさんに、いつもより、演奏時間を長めに、また、場所をかえて、何度か演奏してほしいと頼んだ。  マーガレットさんもそれに頷いてくれた。  ……でも。  今日の花奏師たちの演奏後、聖花たちの様子を見に花壇にいくと、マーガレットさんの担当の区画だけ、明らかに聖花が萎れていた。 「!?」  昨日は、まだ、どこか変、だけだったけれど。  美しさが見る影もないほど萎れたその姿は、痛々しい。 「どうして……!?」  演奏を何度かに分けて行ったのが、逆に栄養過多になった?  場所がよくなかったのかしら?  なにより、こんなことは前代未聞だった。  聖花は、国に繁栄をもたらす。  だからこそ、代々の花奏師たちは、聖花を枯らすことのないように、大事に慈しみ、守ってきた。  それなのに、わたしの代で、こんなこと……。  思わず、わたしの得意なオカリナに手を伸ばしかけ、やめる。  栄養過多になったのだったら、ここで、演奏してもかえって、聖花たちを苦しめるだけだろう。 「……どうして」  早く、マーガレットさんとも話し合わなければ。  演奏後、すぐにこの状態になったのだったら、マーガレットさんも気づくはず。  でも、なんの報告もなかった。  わたしが聖花たちを見回るのは、全員の演奏が終わって、少ししてからだから、その間に何かがあったことも考えられる。  これ以上、聖花に何かあったら……。  自分の想像にぞっとする。  そんなこと、あってはならない。  だからこそ、わたしは、わたしにできる最善策を考えなきゃ。
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