信じるか?

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信じるか?

 ――アギノが眠った後。  起こさないように、そっと、扉を閉める。 「……竜夢、か」  ガロンさんが呟いた言葉に首を傾げた。 「ガロンさんは、さっきのアギノの言葉、ご存じですか?」 「……そんなに詳しくはないが」  ガロンさんは、そこで言葉を止め、ふっと息を吐きだした。  言葉の続きを言うか迷っているようでもあった。 「……ラファリア」  ガロンさんは、星のような瞳で私を見つめる。 「はい」  何だか大事な話のような気がして、姿勢を正す。 「あなたは、運命を信じるか?」  ――運命。  私がその言葉で思い出すのは、やっぱり……。 『君、すごいね』  あのときの眩い笑顔が今も頭に焼き付いて、離れない。 「……はい」  私は、運命には選ばれなかった。 「ではこの言葉は、聞いたことが、あるだろうか」  どんな言葉だろう。 「〈運命の花嫁〉と呼ばれる、特別なたった一人のことを」 「……〈運命の花嫁〉」  そういえば、竜王陛下のたった一人の妃のことを、〈竜王の運命〉とも言う。 「あぁ。……〈運命の花嫁〉を逃した竜は、夢を見る、らしい」 「どんな夢ですか?」 「さぁ……そこまでは。その夢を、竜夢というらしい」  そうなんだ。 「でも、竜夢と私になんの関係が?」 「それは、俺にもわからない」  竜が見る夢。でも、大切な花嫁を逃してしまったのなら、その夢は苦しいだろう。 「アギノに詳しく聞けば、わかるかもしれないが」  でも、アギノはもう眠ってしまったし、起こすのは忍びない。 「……そうですね。聞くとしても、明日、ですね」 「あぁ。竜夢について詳しいことがわかるまでは、あのサシェを持っていてくれないか」  ガロンさんの問いかけにもちろんです、と頷いた。 「部屋まで、送ろう」 「ありがとうございます」  ガロンさんに自室まで送ってもらい、ほっと息をつく。  落ち着いて寛げる場所に、もうこの部屋がなっているという証に、なんだかくすぐったい。 「今日はこの後、何をしよう」  トレーニングをするのはもちろんとして。  そういえば、城の外はどうなっているんだろう。  魔法で城まで来たから、ぜんぜん町の様子とかわからないものね。  ……出かけてみようかな。
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