眩しすぎる君のこと

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眩しすぎる君のこと

(レガレス視点)  ——恋を、している。  あの日から、ずっと。 「聖花がーー!」  興奮して、紅潮した頬。  柔らかそうな、金糸の髪。  薄桃に色づいた唇。  そして、きらきらと輝く瞳は、眩しすぎて何色かわからなかったが。  それでも、あの瞬間の君の顔。  今でも何度も夢に見る。 「君の名前は?」  その名を聞きたいのに。  いつも聞く前に、迎えが来てしまう。  けれど、きっと会えるはずだ。  私が、君に恋する限り。 「……さま」  転んでしまった、お転婆な君。  聖花を見て、涙を流した君。  この体が楽器だと、胸を張った君。  どれも私の瞳を奪うには、十分なほど、眩しい。 「レガレス陛下!!!!」 「!!!!」  は、と意識が浮上する。  私は……、君は? 「……マーガレット」  マーガレットが、心配そうに私を覗き込んでいた。  夢と同じ、金の髪が、私の頬に触れている。  辺りを見回すと、自室だった。  執務を終えて、昼休憩をとっている間に、うたた寝をしてしまったらしい。 「はい、陛下のおそばに」  そう言って、私を見つめ返してくる瞳は、緑だった。  ……違う。 「……?」  違う、とはどういうことだ?  自分の中で浮かんだ言葉に疑問が浮かぶ。 「陛下、どうされました?」 「君こそ、どうしたんだ?」  起き上がりつつ、彼女に尋ねる。  マーガレットは、花奏師。  この時間は、聖花たちに歌を聴かせているはずだ。  聖花を見て、涙を流していた、マーガレットだ。だから、聖花を放っておく、なんてことはないはずだが。 「……ラファリアが」  マーガレットは、瞳を潤ませて、私を見上げた。 「ラファリアが、どうしたんだ?」  ラファリアは、マーガレットの友人だ。  銀糸の髪に、薄桃の瞳が印象的な、落ち着いた侯爵令嬢で、彼女もマーガレットと同じく花奏師だった。 「ラファリアが、どこにもいないんです」 「!?」    花奏師は、基本城から出ない。  それなのに、見つからないとは、なにか、事件に巻き込まれたか? 「早急に、調べ——」 「いえ……ラファリアが、花奏師を辞めてしまったのです」 「そう……なのか」  彼女はとても真摯に仕事に打ち込んでいると報告を受けていた。  何時間も防音室にこもって、聖花たちに聞かせる音楽を練習している、練習し過ぎて心配との声も上がっていた。  そんな、彼女が、辞めたのか。  待遇面が悪かったか?  それとも、人間関係か?  それとも……。  私が考えを巡らせていると、マーガレットは、瞳から雫をこぼした。 「友人だったのにっ、私に何も言ってくれなかった!!」  そう言った、マーガレットは本当に傷ついているように見える。  思わず、私も胸が痛くなった。  子供のように、泣きじゃくるマーガレットの背中を撫でる。  ……違う。  違う?  君は、もっと静かに泣くはず。  いや、そんなはずはない。  聖花を見ただけで、感動した純真な君のことだ。  友人が理由も告げずにいなくなってしまったら、声をあげて泣くはず。  ……そうだよな? 「……レガレス陛下」  ぐすぐすと鼻を鳴らす、マーガレットは、本当に純真な子供のよう。 「あぁ。ラファリアにも、何か、考えがあってのことだろう」 「……実は」  マーガレットは、瞳を真っ赤にしながら、私を見上げた。 「私にひとつ、心当たりがあるのです」 「なに?」  私のこと、嫌わないでくださいますか? と真っ赤な瞳で尋ねる君に、もちろん、と頷いてみせる。 「ラファリアも、陛下に恋をしていたのです」
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