溢れる嘘を隠すには

1/1

97人が本棚に入れています
本棚に追加
/51ページ

溢れる嘘を隠すには

(レガレス視点)  ラファリアが、私を——?  世界が、止まった。  マーガレットの緑の瞳から零れ落ちる涙も、涙に濡れた声も、まるで全てが止まったように、遅く流れる。  ラファリア、マーガレットの友人。  淑やかで、お転婆なマーガレットとは対照的な、侯爵令嬢。  そんな、彼女が、私に恋をしていたという。  だとしたら、私は……。 「……陛下?」 「!」  は、と息を吐く。  世界が急速に動き始めた。  不安げに緑の瞳を揺らすマーガレット。君を不安にさせたいわけじゃない。  そう、伝える代わりに、その背をまた撫でる。 「やはり、嫌われてしまいましたか……?」  だが、行動では、マーガレットには伝わっていなかったようだ。 「いや、そんなことは……」 「そうですわよね。友人の気持ちを知っていながら、ずっと黙っていた私なんか」  震えてまた、涙を零すその姿。  雨に打たながら孤独に耐える、捨て犬のような姿は、庇護欲を誘う。  思わず引き寄せて、頭を撫でた。 「泣かないでくれ、マーガレット」  泣かないで、あの日私が恋した君。 「でも、でもっ、私……ずる、しました」  ドレスの裾をぎゅっと握り、マーガレットは告白した。 「ラファリアも、陛下のこと好きだって、気付いたのに! 何も……言わなかった」  だって、あなたのことが、好きだから。  初めて、出会った日からずっと。  唇を震わせ、時に、止まりながら、マーガレットはそっと、吐き出した。 「ラファリアは、私みたいなよくある金髪じゃなくて、綺麗な銀髪で……」  マーガレットは、そっと、自分の髪に触れる。 「私よりも、ずっとずっと美人だったし」  あの日見た、『君』以上に、美しい存在を、私は知らない。 「それに、花奏師の腕だって、私よりずっと上で……」  あの日の君以上に、聖花を輝かせた存在を、私は知らない。 「それに、それにっ、ラファリアのこと、いつも花奏師長は、褒めていて。……私だって、頑張ってるのに、一度も褒められたことないわ」  ぽろぽろと涙を零して、マーガレットは俯いた。 「ラファリアに、負けたくなかったんです。花奏師として、勝てなくても。ラファリアみたいに、歩くたびに見惚れられなくても。でも、ずるをしても、どうしても、レガレス陛下。あなただけは……」  あなただけは、取られたく、なかったの。 「!」  あぁ。  密やかに告げられた言葉は、私の胸を打った。 「……マーガレット」  私は、静かにマーガレットの、あの日聞けなかった君の名前を呼んだ。 「……」  マーガレットは、子供のように、首を振る。 「聞きたく、ないっ、です」  必死に耳を塞いで、逃げようとする君を、胸の中に閉じ込める。 「私は……」 「いやっ、聞きたくない。離して!」  身を捩って、逃げようとするマーガレット。  でも、逃がさせない。 「……聞いてくれ、マーガレット」  なるべく、聞き入れやすいように、声を落として、マーガレットを見つめる。     「私は、『君』に——恋をしている。あの日、出会った君に。あの日から、ずっと。君だけに恋、してる」
/51ページ

最初のコメントを投稿しよう!

97人が本棚に入れています
本棚に追加