盲目

1/1

97人が本棚に入れています
本棚に追加
/50ページ

盲目

(レガレス視点) 「……半日も」  そう言われて、ベッドから起き上がり視線を窓の外へ向ける。  日の高さを見るに、確かに、眠る前より、ずいぶん時間が経っていたようだ。 「はい。私、本当に、本当に心配で……ずっと付き添っていたんですよ」  そうか、ありがとう。 「……聖花は?」  !?  自分の思った言葉と、口から出た言葉の相違に戸惑う。  マーガレットも困惑した顔をしていた。 「……陛下?」 「いや……、仕事熱心な君が、そんなに長時間抜け出していいのか心配になって……」  私の言葉に、まぁ、とマーガレットは微笑んだ。 「心配してくださり、ありがとうございます。……ですが、心配には及びませんわ。聖花には他の花奏師たちがおりますもの」  でも、とマーガレットはそこで言葉を切り、私の頬に触れる。 「レガレス陛下の婚約者……は、私だけでしょう?」  確かに……そうだな。  マーガレットの言葉は、正しい。正しいように聞こえる。 「……」 「陛下?」  無言になった私を、マーガレットは、不安げに緑の瞳を揺らして見つめる。 「……マーガレット、六年前のあの日のこと、君は憶えているか?」  なぜか、急に確認したくなり、マーガレットを見つめ返した。 「はい、もちろんです」  マーガレットは、大きく頷き、微笑んだ。 「六年前の私、聖花を見て……泣いてしまいましたね。でも、レガレス陛下、あなたはそんな私を笑わないでくれた」  そうだ。  やっぱり、君は間違いなく、あの日の君だ。  何を不安に思う必要があっただろう。  君は、確かに、そばにいるのに。 「そう、だったな」 「はい。……あら、陛下こそ、お忘れですか?」  私たちが出会った思い出の日なのに。  そういって、頬を膨らませたマーガレット。  子供のように純真な、そのいつも通りの姿に、胸がじんわりと温かくなる。 「!!」  ずきり、と頭が痛んだ。 「陛下?」 「いや……、まだ本調子ではないみたいだ」  長時間眠ったとはいえ、薬もまだ飲んでいない。 「たいへん! すぐに、侍従をお呼びしますね」  そういって、マーガレットが部屋を出て行った。  自室に一人残された私は、もう一度、ベッドに背中を預け、息を吐いた。   ……よかった。  マーガレットを一瞬でも疑ってしまうなんて、全くよくないが。  ――それでも、私は、間違っていないのだ。  天井に見えるのは、先ほどと変わらず、初代竜王とその〈運命〉との恋物語。  私とマーガレットもいつか、歴史に残るような、恋だといい。  体調不良のせいか、かなり恋の熱に浮かされているのを感じながら、私は、そっと目を閉じた。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

97人が本棚に入れています
本棚に追加