嘲り

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嘲り

(レガレス視点) 「……な――」  なにを、なにを言ってるんだ、マーガレットは。 「……うふふ、まだ信じられないの? 違うわ、あなたは、目を背けたいだけ」 「!」  そう言ったマーガレットの表情からは、嘲りが読み取れた。 「……本当に」  君じゃ、なかったんだな。 「ええ、そうよ。あぁ、可愛そうなラファリア……こんな馬鹿なひとのせいで花奏師をやめることになるなんて」  ……ああ。 「私は……わたし、は」  なんという愚かなことを――。  ずっと焦がれていた君。君は、あんなにも近くにいたのに。  どうして、気づかなかったのか。 「ラファリアの顔、本当に見ものだったわ。目の前で、思い出のひとを奪われて、それでも笑って……吐き気がするほど、健気だったものね!!」 「衛兵、……早く聖花を枯らしたこの女を連れて行け」  マーガレットが、衛兵に連れて行かれる。 「……でも」  衛兵に連れて行かれる途中で、マーガレットは振り返った。 「散々愛を囁いておいて、手のひら返しするような馬鹿な男に捕まらなくて、マシだったかもしれないわね!」 「……っ」  その言葉の鋭さに息を呑んだ私を、鼻で笑って、マーガレットは今度こそ連れ去られて行った。 ◇◇◇  ……マーガレットが去った後。 「……」  一部とはいえ、この国を繁栄させる聖花が枯れてしまった。  しかも、公にはなってないとはいえ、内定していた婚約者のせいで。 「……陛下」  名前を呼ばれて、はっ、と顔をあげると、花奏師長が、首を振った。 「さきほど、このオカリナで演奏をしてみたのですが……、聖花に変化はありません」 「……そうか」  確かに聖花は、枯れたままだ。  私よりもよほど聖花のほうが、義理堅かった。  その事実に胸が痛む。 「偽物の演奏を聞いて、この状態になったのなら、治せるのは、ラファリアさんしかいないと思います」 「……だが」  彼女は、今どこに——?  それに、彼女は私のせいで去ったのに、戻ってこいなどと、虫がよすぎやしないだろうか。  だが、聖花をこのままにしておくのは、あまりに……。 「陛下!」 「あぁ、クルスか」  侍従のクルスが、私たちの方へ駆けてくる。 「ラファリア様の現在の居場所がわかりました! 魔国の、闇獣の世話係として、働かれているそうです!」
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