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魔国について
この国の人たちのこと、私はまだ全く知らない。
だからこそ、闇獣の世話係として、知りたかった。
「かしこまりました。では、今日は、王都をご案内いたしますね」
ユグは微笑んで、私の手を取る。
「はい、よろしくお願いいたします、ユグ」
◇◇◇
王都はとてもにぎわっていた。
露店では、様々なものを売っていて、とても面白い。
美味しそうな食材、色とりどりの花、様々な効果の魔道具……など、どれも私の興味を引くものばかりだ。
その中でも……。
「ユグ、これは何ですか?」
私が指さしたのは、ネコ型のなにかだった。
紫の瞳をしたネコは、ちょっと、顔がアギノに似ている。
……可愛い。
「ああ、これは……」
ユグは微笑んで、私を見つめた。
「闇獣の魔力がこもった、魔道具ですよ」
「……闇獣の?」
つまり、アギノの魔力が。
「はい。私たち魔族の特徴は、体内で『魔力』と呼ばれる力を錬成できること、なのはご存じですね?」
「はい」
私の国では、魔力を持った人は限られた数しか、生まれないけれど。
魔族は、魔法がみんな使えるのだ。だからこそ、『魔族』と呼ばれる。
「それでも、その中で錬成できる魔力の質は様々です」
「魔力に質があるんですか?」
面白い概念に、目を瞬かせる。
てっきり量だけかと思っていた。
「そうなんです! 質が高い魔力のほうが、いい魔法やいい魔道具が作れます」
魔道具は、魔法がこもった道具のことだ。
「……そうなんですね。でも、闇獣の魔道具というのは?」
「はい。これぞ、闇獣が我が国を繁栄させている、と言われる所以で……」
ユグは、ネコ型の魔道具を購入すると、それを手に乗せた。
「見ていてくださいね」
ユグが、何かを呟く。
すると……。
魔道具が光り、その光は、ユグの体内に入っていった。
「ユグ、大丈夫ですか!?」
「はい、もちろんです」
ユグは微笑んだ。
心なしか、ユグの顔色が先ほどよりも輝いて見える。
「闇獣の魔道具は、魔力の質を上げてくれます。魔力に混ざる不純物を取ってくれるんですよ」
「へぇー! それはすごい」
だったら、アギノの置物に触れた魔族の人たちは、より良い魔法や魔道具が使えるようになるのね。
「魔力は、毎日体内を循環しているので、だいたいこの置物の効果は、一日で切れてしまいますが。それでも、私たちの生活には欠かせないものです。それに」
ユグは、私に魔道具を渡した。
紫のきゅるんとした瞳が私を見つめている。
「魔道具だけでなくて、闇獣が元気でいるだけでも、魔国の国民の魔力量は上がります」
「そうなんですね!」
だったら、私の立場は、責任重大だ。
今まで以上に頑張ろう。
「ところで、ユグ、この魔道具を、国外に持っていったら、どうなるんですか?」
純粋な疑問だった。
闇獣が繁栄をもたらすのは、この魔国だけだ。だから……。
「はい、少なくとも闇獣の魔力がこもったものは、この国内でしか使えません」
「そうなんですね」
「はい。ですがラファリア様……」
ユグは、私の胸元に輝くバッジを見て、微笑んだ。
「その鈴は別です。ちゃんと国外でも効果を発揮するのでご安心を」
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