馴染む

1/1

97人が本棚に入れています
本棚に追加
/50ページ

馴染む

翌朝。  ……今日も、夢は、見なかった。  サシェのおかげで、ゆっくりぐっすり眠れた私は、ベッドの上で大きく伸びをする。 「おはようございます、ラファリア様」 「ユグ、おはようございます」  私の顔色を見て、ユグが嬉しそうに微笑んだ。 「昨夜はぐっすり眠れたようですね」  その通りだ。 「はい。おかげでぐっすり」 「連れまわしすぎて、疲れさせてしまったのでは、と心配だったのでよかったです」  ユグには、むしろ、付き合ってもらって有難かったくらいだ。 「いえ、昨日はとっても楽しい時間でした」  昨日食べたものや、行った場所の話をしながら、朝の支度を整えるのを手伝ってもらう。 「……今朝も陛下からの朝食会の誘いがございますが、いかがなさいますか?」  なんだか、この城にやってきて恒例となりつつある朝食会。 「参加します」  もちろん、断る理由もないので、笑顔で頷く。 「かしこまりました、ではそのようにお伝えしますね」 「はい、よろしくお願いします」  今日の髪型は、昨日の髪型のさらにアレンジを加えたバージョンだった。  編み込みがいくつもされていて、とってもかわいい。 「ユグ、いつも素敵に仕上げてくれて、ありがとうございます」 「いえ! 私の方こそ、ラファリア様の御髪を整えるのは、趣味になりつつあるくらいで……」  頬を染めながらそういった、ユグにこちらまで、嬉しく気恥ずかしくなる。 「ふふ、ありがとうございます。では……行ってきますね」 「はい。行ってらっしゃいませ」  食事の間への道のりを歩いていると、ふと、中庭が目についた。  もちろん、そこには聖花は植えられていない――。 「聖花は、どうしているのかな……」  ふと、立ち止まる。 「!」  すると、ひときわ大きく鈴の音が聞こえた。  そうだ、私は、闇獣の世話係。  第一に考えるべきは、アギノのことだ。アギノと言えば……。 「昨日のアギノ、様子がおかしかったわよね……」  竜夢など、気になるワードもあったけれど。  何かを隠しているような、思い出して、懐かしむような。  不思議な雰囲気だった。  アギノのことを考えながら、足を進めているうちにあっという間に食事の間についた。  ……深呼吸をする。  うん、ちゃんと『世話係のラファリア』に気持ちが切り替わっているわね。 そのことを確認してから扉を開ける。 「おはようございます、ガロンさん」  ガロンさんは、席にもうついていた。  いつも私が待たせてばかりで申し訳ない。 「あぁ、おはよう。……!」  ガロンさんは、目を見開くと、ぱっと俯いた。  ……どうしたのかしら。  って、相変わらず、正装のガロンさんはまぶしいわね。 「ガロンさん?」  とりあえず、席に座り、ガロンさんに尋ねる。 「……いや、なんだ。今日のあなたは、一段と輝いているな」 「そう……ですか?」  輝いているのは、ガロンさんの方だと思うけれど。  首を傾げつつ、昨日との自分の変化について考えてみる。 「あぁ、そういえば。昨日は、サシェと魔道具とも一緒に眠ったんです。だからか、一昨日以上にぐっすり眠れて……」  アギノの魔力がこもった魔道具と、ガロンさんの魔力がこもったサシェ。もしかしたら、相性がいいのかもしれないわ。 「魔道具?」  興味深そうに、瞳を瞬かせたガロンさんに説明する。  昨日、ガロンさんと別れたあと、ユグと一緒に城下を見て回り、そこで、アギノの魔力のこもった魔道具をもらったことを。 「……なるほど。 では、魔道具のおかげで、魔国の空気があなたの体に馴染んできたのもあるかもしれないな」  空気が体に馴染む?
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!

97人が本棚に入れています
本棚に追加