僥倖

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僥倖

どういうことだろう。 「魔国には、特殊な空気が満ちているんですか?」 「……あぁ。魔国の空気には、魔素と呼ばれる特殊な成分が多く含まれているらしい」  なるほど。でも、魔素ってことは……。 「魔素と、魔法や魔力は関係がありますか?」 「あるな。魔素を多く含む空気がある環境の方が、魔法一つ使うにも、使う魔力の量が少なくなるんだ」 「そうなんですね。……もしかして、魔国の空気に馴染んだ私は、魔法が使えるように……!?」 「……訓練をすればあるいは」  え、ええ!? 本当に!?  驚く私に、ガロンさんは至極まじめな顔で頷いた。 「稀に魔国でも魔力なしで生まれてくる子供もいる。その場合は、空気中の魔素を集めて、魔法を使う訓練をするんだ」 「そうなんですね」 「あぁ。魔法以外にも……魔素を多く含んだ空気は、健康にもいいらしい」  ……健康にもいい? 「そういえば、最近、肌ツヤがいい気がします」  てっきり、睡眠がよくとれているからかと思っていたけれど。  それだけじゃないのかも。 「……ああ。おそらく、魔素も関係しているだろうな。アギノの魔道具は、魔素との親和性を高める効果もあるから。それでも、あなたがこの国に少しずつ馴染むのをみると改めて……」 「ガロンさん?」  ガロンさんは、そこで言葉を止め、星のような瞳で、私を見つめる。 「俺は、そんなに口が回る方じゃない。でも、だからと言って、伝えることを諦めたくない。……だから、その――あなたが来てから、この城は明るくなった。もちろん、闇獣の世話係としてのあなたの演奏が素晴らしいのもあるだろうが……」  それだけじゃないんだ。  ガロンさんは、そう、そっと息を吐きだした。 「ラファリア、あなたが魔国のことを知ろうとしてくれたり、ユグやアギノといった魔国の存在と親しくしてくれたり。  ……気づいたか? 日に日に料理が豪華になっているんだ。料理長に聞けば、あなたが美味しそうに食べてくれるのが、嬉しかったらしい。  ……そういうあなたの行動一つ一つが、この城を少しずつ変えているのだと思う。  ――あなたという得難い存在を、魔国に迎えられて、僥倖だった」 「……ガロンさん」  まだ数日で、ここまで評価してもらえるなんて。  そんな評価に見合う私になれているかな。ううん、なりたい。 「……私も。魔国に来られて、幸せです」  だからこそ、幸せだと思える居場所にいられることを、当たり前だと思わないようにしないと。  私に与えられる、待遇も、親切も、優しさも、評価も。  今は、まだ分不相応かもしれないけれど。  期待はずれだった、なんてがっかりさせてしまうんじゃなくて、もっと喜んでもらえるように。 「ありがとう。……どうか、これからもよろしく頼む」
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