光栄

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――朝食会が、終わった後。 「……そうだ、アギノに報告に行かないとな」 「そうですね」  アドルリアでの滞在は、明日からで、移動は転移魔法を使って行われる。  もちろん、転移魔法でいける場所には制限があるから、城下まで転移魔法で、そこからは徒歩で移動するみたいだ。  ガロンさんと歩きながら、アギノの部屋を目指す。 「……ガロンさん」 「どうした?」  私は、じっとガロンさんを見つめる。 「距離、遠くありませんか?」  ……そう、私とガロンさんの間には三メートルほど距離があった。 「いや……その、俺にはこれでも近すぎるくらいだ」 「? そうですか?」  ガロンさんはそんなにパーソナルスペースが広い方だったかしら。 「あなたが嫌だとか、そういうわけではなくてだな……、今の俺にはあなたの距離が近いことは刺激が強いというか……」 「刺激が強い」 思わず繰り返してしまった。 「あぁ。その……たぶん、あなたが戻ってくる頃には落ち着くと思うから、気にしないでくれ」 「わかりました」  ガロンさんったら、本当にどうしたんだろう。  まぁ、でも嫌われてないならよかった。  その後も三メートルほどの距離を保ちながら、アギノの部屋についた。 「アギノ、おはようございます。……ガロンさんも一緒です」 「おはよ、ラファリア、ガロン。はいっていーよ」  扉を開けて中に入ると、軽い足取りで、アギノが駆けてきた。 「ラファリア、昨日は、ありがと。ラファリアの歌、とっても心地よかった」  そう言いながら、足元にすり寄ったアギノの頭を優しく撫でる。 「そう言っていただけて、嬉しいです」 「今日は、なんの曲にしようかなぁ。……えへへ」  急に機嫌がよさそうに頬を緩ませたアギノに首を傾げる。 「アギノ、どうしました?」 「ラファリアは、ボクの世話係でしょう? だから、これからずっとこの歌が聞きたいって言えるんだなぁ、って思ったら嬉しくて……」 「!!」  そういったときのアギノの顔は本当に幸せそうで、私は思わずアギノを抱きしめた。 「!? ちょ、ラファリア……」 「アギノ、私もアギノの世話係になれてとっても嬉しいです」 「ま、まぁ、ボクの世話係になれるなんて、光栄なことだもんね!」  照れたように横を向いたアギノは、ぶんぶんと尻尾を揺らした。 「……ふふ。そうですね、アギノ」 「今日は何の曲にしようかなぁ。あ、でも、明日もあるから……」  考え込んだアギノを微笑ましく眺めていると、ガロンさんが私に目配せした。 「アギノ」 「なに、ガロン?」 「ラファリアは、明日から、アドルリアに行くことになった」
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