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おやすみ
「君、すごいね。君の演奏のおかげで、なんだか私の体の調子もよくなったみたいだ。頭痛が消えたよ」
「!!」
私の演奏の特徴。
精神や傷も癒すこと。
「あの、えっと……」
どうしよう。
私の力は、誰にも話したことがない。
というかそもそも、自分の傷とかにしか効かないと思っていた。
でも、もしそうじゃないのなら。
「もしかして、この力、秘密だった?」
察しが良すぎるレガレス殿下は、そう尋ねてきた。
「……はい」
今の私は、まだ、幼い。
この力に利用されずに、うまく付き合っていく方法がまだわからなかった。
「……そっか」
レガレス殿下は考え込むと、小指を差し出した。
「じゃあ、私も君の力を口外しない。約束だ」
「約束……」
私のものよりも少し大きい小指に自分の小指を絡ませる。
「あぁ、約束だ」
大きく頷いて、指が、離される。
「ところで、君の……」
レガレス殿下が何かを言いかけたとき、誰かがレガレス殿下を呼ぶ声が聞こえた。
「……行かなくちゃ。帰り路はわかるかな?」
頷くと、レガレス殿下は去っていった。
名残惜しく見送った後、大慌ての父が迎えに――。
◇◇◇
「……大丈夫か?」
体を揺すられ、目を覚ます。
聞き覚えのない声に驚きつつ瞼をこする。
「……は、い」
きょろきょろとあたりを見回すと、そこは質のいい部屋だった。
「なら、いい。初めてだったのに飲みすぎたんだろう」
美しい青年にそういわれて、先ほどまでの記憶を思い出す。
そうだ、わたし……。
「ありがとうございます、ガロンさん。ところで、この部屋は……」
「よかった。記憶をなくすタイプじゃなかったんだな」
確かに。酔っぱらって記憶をなくす人もいるっていうものね。
「……この部屋は、俺がとってる宿の隣室だ」
酔っぱらって眠ってしまった私を、ここまで運んできてくれたのかしら。
……それはかなり恥ずかしいわ。
あとで、酒場代と部屋代を返そう。
「それで、記憶をなくしていないということは、先ほど話した、仕事の件も、憶えているか?」
「はい、もちろんです」
仕事の話に、姿勢を正す。
ガロンさんが私にした提案、それは、子守りをしてほしいとのことだった。子守りと言っても、何か曲を毎日聞かせればいいらしいけれど。
「じゃあ、問題ないな。酒場代と部屋代は、前報酬みたいなものだと思ってくれていい」
「ええ!? ……でも」
さすがに申し訳ないというか。
「そんなに気にしなくていい。そうだな、気になるというなら……」
ガロンさんは、真剣な目をして私を見た。
「今後は見知らぬ男の前で、隙を見せすぎないこと、を注意してくれたら、こちらも十分な対価になる」
「……わかりました」
ガロンさんには、多大なる迷惑をかけてしまったし。
それにガロンさんじゃなければ、危ない目にあっていたことも考えられるものね。
自分の軽率な行動を反省しつつ、頷くと、ガロンさんは、微笑んだ。
「わかってくれたなら、いい。今日は、ゆっくり休んでくれ。仕事の詳しい内容は、明日また、話す」
「はい」
ガロンさんはすたすたと部屋を出ていこうとし、それから思い出したように振り返った。
「……おやすみ、ラファリア。良い夢を」
「! おやすみなさい、ガロンさん」
柔らかいその表情に驚きつつ、私もガロンさんに手を振り返した。
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