恋の花火はコーヒーのあとで

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「ええっと……また詳しく日取り決まったらお知らせしますので、皆さんそろそろ勘弁してください」 茶目っ気たっぷりに軽くペコっと頭を下げた香田課長に、航平含め課のメンバーが笑いながらそれぞれの席へと戻っていく。 香田課長はようやく私の隣のデスクに腰かけると、大きな手のひらで口元を覆いながら「まいったな」と私に向かって困ったような顔をした。 「水野も知ってたのか?」 知っているわけがない、寝耳に水とやらはこんな状況のことを言うのだろうなと心の中のもう一人の私が呆然としているのを何とか隠して、私は精一杯つくり笑いをする。 「皆さんのお祝いムードで気づきました、おめでとうございます」 「はは。ありがとう。まさかこんなに早く皆にバレるとはな」 香田課長はパソコンの電源をつけながらも幸せそうな笑みを浮かべている。 「ちょうど先週プロポーズしたんだ」  「そう、なんですね」 「まさか梨花(りか)……あ、宮本さんとのことを飲み会の場で言うことになるとは思わなかったけどね」 宮本さんのことを梨花とうっかり呼ぶ香田課長に私の目の奥は熱くなってくる。 (大丈夫、大丈夫) 私は心の中で何度も呪文のようにその言葉を繰り返しながら口角をなんとか引き上げた。 「もしかして飲み会で色々課長に聞いたのって、物流部の高橋(たかはし)さんあたりですか?」 「そうなんだよ、アイツ同期だからって遠慮の欠片もなくてさぁ。ほんと昨日の飲み会は参った」 うちの会社は文房具全般を企画、販売しており創立して十年目になる。創業して浅いこともあり従業員も三十人ほどしかいない。また従業員の九割が二十代から三十代前半ということもあって社内の雰囲気はいい意味で上下関係に縛られることなく、新規企画についても肩書関係なく良いものが採用されたりと、社内環境も従業員同士の仲もとてもいい。
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