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「やっば、超懐かしいんだけど」
そして今、久しぶりに帰省した麻友とあの日と同じスタバにいる。
同級生の結婚式の二次会のあと、二人で抜け出してきたのだ。
アルコールも入って、二人ともすっかり上機嫌だ。
「中学生にスタバは流石に敷居高いよね」
「場違い感半端なかったもん」
「しかも地元で初出店でさ。こんなど田舎のショッピングモールによく作ったよね」
「いや、ほんとほんと」
ふふっと小さく笑って、麻友はブラックコーヒーの入ったカップを傾けた。
「私ね、あの日、陽子に言えなかった事があるんだ」
カフェミストの泡を上唇にのっけたまま、私は瞬きをした。
麻友のすらりとした指先には、こっくりとした色味のボルドーのネイルが彩られていた。
「陽子のこと、親友だと思ってるって伝えたかった」
気恥ずかしそうにそんな事を言う麻友に、私は思わず抱きついた。
「私もぉっ、ずっと親友だと思ってる」
「ほんとうに?」
「麻友ちゃんと親友になれた事は、私の人生最大の功績だよ」
「大袈裟だなぁ。っていうか、麻友ちゃんって呼び方懐かしい」
「ついてるよ」と言って、麻友が紙ナプキンを差し出してくる。
私はそれを受け取って、唇を拭いながらくぐもった声で呟いた。
「あの時さ、黒い下着買うなんて言い出すから、私より先に大人になっちゃうみたいでショックだったよ」
言ってから急に気恥ずかしくなって、顔を逸らしてカップに口をつける。
麻友はにやりと口の端を吊り上げて悪戯っぽく笑うと、着ているシフォン素材のワンピースの襟元を横にぐいっと引っ張って見せた。
「ちなみに、今日のは赤」
不意打ちを喰らった私がコーヒーを口から噴き出すのは、その5秒後だった。
END.
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