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 僕らは自転車を挟んで隣り合わせで歩いた。でも歩幅は小さく、ゆっくりと。 「お母さんに、すすめられてね。始めたんだアイドル。そしたら楽しくて。何かね。グループの中では人気あったみたいなんだ、私。グッズが一番売れてるって。だからセンターの話しもあったの」  どうしてそんな話をするんだろうと思いながら、僕の頭には知りもしない他のメンバーが悪口を言うイメージが浮かんでいた。 「でも、事務所とお母さんが揉めちゃって」 「え?」 「お金のことでね。多分、お母さんがギャラあげろーて言ったんだと思う。他の子と一緒はおかしいって。私は全然かまわないのに」 「もしかして大人の事情で辞めたの? いじめじゃなくて?」 「いじめ? ああー。黒子とか? 事務所と揉めたのがきっかけで、嫌味とか言われるようにはなったけど。そんなのアイドルを辞める理由になんてならなかったよ。お母さんが事務所と縁を切っただけ」 「そんな、勝手に!」 「しかたないよ。価値観の違いだもん」  小さく肩をすくめる黒宮さんは、僕の目にはまぶしかった。確かに他の子とは違う。それは理解できるけど、黒宮さん本人の気持ちは、想いは、大人の価値と、どっちが大切なんだろう。  お好み焼き屋がある路地に入ると手前に自動販売機があった。僕は自転車を止めて、時間稼ぎにジュースを買うことにした。
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