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「また黒宮(くろみや)さん見てるのか思春期くんは」 「だから、その呼び方はよせ。そして他人の席に我が物顔で座るな」  僕の前の席に後ろ向きで座り声をかけてきたのは、幼馴染の久遠(くおん)真白(ましろ)だった。 「元アイドルで綺麗だけどさ。入学初日から、ずっとガン見してて引くわー」 「そんなに見てないだろ。え? 元アイドルなの?」 「無意識とか、もっとショック」 「アイドルとか興味ないし。有名だったの?」 「隣街だから多少? ただの地方アイドルだよ。すぐ辞めたらしいけど」  真白は黒宮さんの視線を避けるみたいに頭を低くして僕に教えてくれた。 「ニックネームはだって」 「黒子? あんな白いのに?」 「だからライトに当たると飛んじゃうんだって。存在感なくなって黒子みたいだって。それが辞めた原因とも言われてる。ファンは黒宮のと琴鳴のだって言ってるらしいけど」  僕はきっと、真白に適当な相槌を返していた。そしてまた、同級生達の影絵に目を向けて、夏の日差しよりも眩しい黒宮(くろみや)琴鳴(ことな)の横顔を見ていた。 「真白は虫嫌いだろ?」 「うん、大嫌い」 「でも毎年、蛍を見に誘うよな」 「まー風物詩だし? お祭りっぽいし? 何の話?」 「嫌いでも光ってたら見るだろ?」 「光矢(こうや)さ。それ例えとかなら最低なんだけど」 「見るだろって話し。光ってるゴ」  突然頭上に降って来た衝撃に、僕は机に突っ伏した。
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