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 中間テストも近づき多くの部活が休みとなって静かな校舎。居残りで提出物を終わらせた僕は、窓から見る空が赤くなりはじめてた廊下を歩いていた。玄関へと曲がる角が少し明るく、僕は足を止めた。 「きゃっ」  やはり黒宮さんが現れた。僕が止まらなければ、ぶつかっていたところだ。そう。僕は黒宮さんの気配が見えるようになっていた。正確には気配でなく光だけど。 「大丈夫?」 「ごめんなさい。衛藤(えとう)くん。だよね?」  席替えなどもあったが、僕と黒宮さんは、まだ話した事がなかった。それどころか顔と名前を知られているとも思っていなかった。 「う、うん。黒宮さん。でしょ?」 「あは。お互い疑問系」 「あ、だね」  黒宮さんが笑ったのにつられて僕も笑っていた。 「衛藤くん、今から帰り?」 「うん。黒宮さんは?」 「折り畳み傘忘れちゃったから取りに」 「わざわざ!?」 「降りそうだから」  廊下の窓から見える空に雨雲は見えず、夕焼けに染まっていた。 「どこが?」 「ふふ」  意味深な微笑みを残して黒宮さんは教室へ向かった。 「うそだろ」  靴を履き替え玄関に出た僕の目の前には、静かな雨が降っていた。傘がなくても大丈夫そうだが、家に着くまでには、しっかりと濡れそうな雨。 「ね」  気が付けば折り畳み傘を広げた黒宮さんが、明るい空を見上げて立っていた。 「途中まで入りなよ」 「あ、ありがとう」  雨粒が乗りそうな長い睫毛を間近に見た僕は、開いていた口を閉じた。
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