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 傘に当たる雨の音がうるさかった。それは僕の心臓にリズムを合わせてるみたいだった。 「珍しいよね」 「え?」 「私って真っ白でしょ。高校のみんなは優しくて何も言わないけど。自分からは関わらないようにしてるのは分かる」  前を向いたままの黒宮さんの声は涼やかだった。濡れた僕の左肩からは水蒸気が出そうだっていうのに。 「綺麗だと思うよ」  言葉を選ぶ余裕もなくて、思っていた事をそのまま口に出してしまった。黒宮さんがこっちを向くのが気配でわかった。 「仕事以外で初めて言われた」 「み、みんな言わないだけだよ」 「ホントにそう思ってるの?」  横目で見た黒宮さんは、目を大きくして僕を見ていた。 「うん。友達になりたいに決まってるよ」  もう僕は前を見つめたまま、胸に浮かんだ言葉を脳を通さずに口に出すことしかできなかった。 「葉っぱは何で緑色か知ってる?」 「え。こ、光合成してるからでしょ?」 「うん。他の色は吸収するのに、緑色は跳ね返すの。だから嫌いな緑色をしているの」  葉っぱは自分の嫌いな色に染まっている。僕はそんな風に考えたことがなかった。 「だから白い私の中は、真っ黒かもしれないよ?」 「そんなことない! よ……」  思わず立ち止まった僕の頭上に細い雨粒が当たる。一歩先に進んだ黒宮さんが振り返り傘を閉じた。
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