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 終業式が終わり、いよいよ夏休み。雲ひとつない青い空に、みんなの喜びに満ちた声と蝉の声が混ざり合う。  幾つかの部活はコンクールや大会に向けて、より本格的な活動に入る。真白が所属する吹奏楽部も、そのひとつだった。  吹奏楽部の演奏を背に校門に向かいながら、目は黒宮さんを探していた。結局、男友達と遊ぶ約束をして別れると、僕は帰り道を一人で歩いていた。  家から駅までは、シャッターが閉まった店が多い商店街を、自転車で抜ければすぐだ。  駅前の商業施設で待ち合わせた僕たちは、ゲームコーナーや書店を巡り、最後は軽食でフードコートに居座るのがお決まりで、それは夏休みになったからといって変わりはしなかった。 「アローは、どっちかと付き合った?」  その質問は、名前の光矢がライトアローになりアローで定着したあだ名くらい聞きなれた質問だった。どっちかていうのは、もちろん真白と黒宮さんの事で。それは本当に聞きたい訳ではなくて、それで会話を始めるのもお決まりのようなものだった。答える必要もなく、みんな笑って話題は次に移ってゆく。 「ああ、そう言えば黒宮さんさ」  珍しく話が戻った。新しい展開にみんなが興味を示したのを見て、言い出した友達は秘密だぞと言わんばかりに小声になった。 「アイドルの時に、くろこって呼ばれてたの知ってるだろ? あれ、グループのメンバーのイジメらしいぞ。それで辞めたんだよ」 「目立つからなー」 「女子こえー」  自分の肩を抱いて震えるジェスチャーをする奴を見てみんなが笑って、その話題は終わった。僕は顔で笑いながら、頭では黒宮さんの顔を思い浮かべていた。
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