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「じゃあなー」  夕方の時報が流れて僕らはバラバラと解散した。夕飯の買い物のお客さんなのか、出入りが多くなったスーパーの前で、自転車にまたがり信号待ちをしていた時だった。 「衛藤くん?」  名前を呼ばれて振り向くと、そこに黒宮さんがいた。 「やっぱり。何してるの?」 「友達と遊んだ帰り。黒宮さんは?」 「カラオケの帰り。これから、そこの路地のお好み焼き屋さんで家族と合流するところ」  駅の方、アーケード手前の路地を黒宮さんは指差した。 「そうなんだ。黒宮さんカラオケ行くんだ。メンバーはうちのクラス?」 「一人でだよ」 「え?」 「定期的に歌わないと、下手になっちゃうからさ」  初めて黒宮さんがアイドルだったんだと実感が湧いた。そしてさっき友達から聞いた話も。黒宮さんは、アイドルを続けたかったのかもしれない。 「衛藤くん、少し話せる?」 「いいけど」  自転車を降りると、僕らは自然と路地に向かって歩き始めた。 「衛藤くんは、いっつも自然と接してくれたけど、私の噂知ってるでしょ? 噂っていうか、その通り地方アイドルだったんだけど」 「うん。でも噂は噂だから。俺が知ってるのは今の黒宮さんだし、それだけは本当のことだから」  黒宮さんが立ち止まり、僕は慌ててブレーキを握った。黒宮さんが、じっと僕を見つめる。 「どうしたの?」 「すごいね衛藤くん。今、すごくカッコよかった」 「なんだよそれ」  恥ずかしくて目を晒した。喉がカラカラに乾くのを感じた。
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