雨のやまない国

4/9
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
 ウーは本に書かれていることをそのまま受け取り、当時の住人や王様の気持ちに思い寄せることが出来ていなかった。  平和に暮らしている所へ突如として巨大で、人では到底敵わない存在がやって来た。改めて考えるとそれは恐ろしいことだ。しかし。 「竜に何もしなかったらこの国は呪われなかった。ニジカの病気だって……、……。」  雨により湿気。そして湿気により発生したカビ。そのカビを慢性的に吸い込むことでニジカは肺を患っていた。  大切な親友が苦しんでいるのは、竜の呪いせいであり、ひいては竜を殺めようとした当時の人間達のせいだとウーは思えてならない。 「わたしの心配をしてくれているのね、ウーは優しいね。……ねぇ、それよりもまたをして。ウーのひいおじい様のお話。わたし、あの話が大好きなの」  病身のニジカに気をつかわせている自分自身をウーは恥ずかしく思いつつ、償いの様にニジカの大好きな話をする。 「アタシのひいおじいがね、戦争に行った時の話。レイン王国と隣の王国の間にある高原でひいおじいは戦ってたの。高原には雨が降っていて、ビショビショになりながらひいおじいは塹壕に身を隠していた」  ウー自身、ひいおじいさんからもう何度も聞いた話だ。今では自分が体験したかのように言葉を紡げる。 「ある日、いつものように塹壕の中にいると急に辺りが明るくなったの。驚いて顔を少しだけだして周りを確認すると、雨が降っていなかった。そんなこと初めてで、思わず空を見上げると雲一つ無い綺麗な青色の空が広がっていた」  ウーもニジカも“青色”という色は知っているが、青色の空というものは見たこともない。頑張って想像してみても、頭に浮かぶのは涙を流し続ける灰色の空だ。 「そして青い空にはレイン国と隣の国を結ぶような7色の大きな橋がかかっていたの。ひいおじいは捕虜の友人にあれはどういう魔法なのかと訊ねた。するとその友人は言ったの。あの空の橋は“虹”といって、雨上がりに条件が揃えば見られる自然現象だってね」  ニジカはウーの話を聞いて笑みを深め、ウーもまた笑いながら続ける。 「両国の兵士はその虹に見入ったの。そうしている内に、戦いなんてどうでもよくなってきて両軍は高原から引き上げることにした。こうして十数年に及ぶ戦争は終わったの。……そして、ひいおじいは撤退する最中にを見たわ」  青い空にかかる和平をもたらした虹の橋、それを目に焼きつけたくてもう一度見上げると……。 「虹のアーチをくぐって飛んでいく竜。ひいおじいは雨をやませてくれたのは竜だって信じてるみたい」
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!