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雨はやんだ。しかし空は依然として曇っている。ウーが不安げに竜を見上げると、竜は優しく微笑みふぅーと息を吐く。
竜の吐息を浴びたウーは、いつの間にか都の入口まで戻ってきていた。さっきまで森の中へいたはずなの一体どうして? まさか森での出来事は夢だったの? 一瞬混乱したが、雨が降っていない事実にあれは現実だと思い知る。
ウーは森の方角へ「ありがとうございます」と言いながら頭を下げる。そして雨がっぱを脱ぎ捨てると、ニジカの家へと走り出す。
ニジカの家に着くと、ウーの母親がいた。
「ウー! あんたこんな時にどこへ行ってたの!」
「そんなことよりもニジカは?!」
「ニジカちゃんなら、奇跡的に容態が回復したわ。お医者様も驚いてた」
「そう、よかった、よかったぁ……」
ウーはその場のにへろへろと座り込んだが、母にニジカの顔を見て来いと言われて寝室へと向かう。
ニジカは穏やかな寝顔ですぅすぅと眠っていた。
ベッドの横に置いてあるロッキングチェアにウーが座ると、ニジカがゆっくりと目を覚ます。
「……ウー? ウーなの?」
「うん、アタシだよ。起こしてごめんね」
「ううん、謝らないで。……何だか、静か過ぎて目が覚めたの」
静か過ぎる? ウーはその意味が一瞬理解出来なかった。しかしはっとしてベッドに登り、カーテンと窓を開く。
「ニジカ、雨がやんだよ。竜の呪いが解けたんだよ!」
「え? うそ……」
ニジカは上半身を起こし、開け放たれた窓から空を見る。確かに空は泣いていなかった。
「どうして急に……」
「理由なんて今はいいじゃない!」
ウーはニジカの手を握って笑う。
「これから一緒に色んな空を見よう。ね、ニジカ!」
ニジカは直感した。きっとウーが何かをしたのだと。その何かは分からないが、それはきっと自分を思ってのことだ。
ニジカは鼻の奥がツーンと痛み、瞼が熱くなる。だが涙を零さぬように笑い返す。
「うん、わたしもウーと色んな空を見たい!」
その時、ふたりのいる部屋へ光が射し込む。雨雲が晴れていき、太陽が顔を見せたのだ。時刻はいつの間にか朝になっていた。
ふたりは勿論、この国の住人は太陽なんてまともに見たことがない。そしてその太陽はこれまた今まで見たことのない青色の空へ浮かんでいた。
そして──。
「ウー、行こう!」
ニジカはベッドを飛び降りると、ウーの手を引いて元気に走りだす。ウーは驚いたが一緒に駆け出した。
家を飛び出て、ふたりは顔を上げる。
雨上がりの空にかかる7色の大きな橋──虹。
「とってもきれいだね、ウー!」
「うん! そうだね、ニジカ!」
ふたりは手を繋ぎ、その橋が消えてしまうまでずっと一緒に空を眺め続けた。
これから先もふたりは虹が空にかかるたび、ふたり仲良くそれを見上げることだろう。
《終》
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