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「なーにが竜に呪われた国よ。余計なことをしたからバチがあたったのよ!」
ウーは湿気でページが波打った本をばたんを閉じ、窓の外を睨みつける。外は相変わらず雨降りで、灰色の陰鬱な空が広がっていた。
「ウー、余計なことってなぁに?」
窓際のベッドに横たわるニジカは苛立ちを隠そうともしないウーに優しい口調で問いかける。
するとウーはニジカに視線を移すと、座っているロッキングチェアを揺らしながら答える。
「そりゃあ勿論竜に毒林檎を食べさせたことよ。そんなことをしなきゃ竜の恨みを買わないですんでいたのに。だってね、ニジカ!」
ウーは椅子から飛び降りると病弱な親友にぐいっと近づき、手にした本の表紙をパンパンと叩く。
「“邪悪な竜を退治して下さい”なんてあるけどさ、竜はただ森の中に住んでいただけじゃない! 都を襲っていたわけじゃないし、自分を討伐に来た兵士達のことですら殺さずただ追い返しただけなのよ?」
「……そういえばそうね、ウーの言う通りだわ」
「でしょう? それなのに毒を盛るだなんて信じられない、馬鹿じゃないの?!」
怒りで顔真っ赤にし鼻息を荒くするウーを見てニジカはくすくすと笑っていが──突然派手に咳き込み始める。
「ゴホッゴホッ!!」
「ニジカ!」
ウーはニジカの背中を慌てて擦る。
このレイン王国には肺を患っている者が多く、ニジカもその内のひとりなのだ。
「ゴホッ、ねぇ……ゴホッ、ウー」
「無理して喋らないで!」
「わたしね、昔の人達が竜に毒を盛った気持ちが……少し分かるかもしれない、」
「…………え、」
ニジカは呼吸を整えると、静かに言う。
「怖かったのよ。竜がいつか気まぐれを起こして都を襲ってくるかもしれない……そんな臆病なことを考えてしまったのでしょう。生活や家族を守る為に昔の人達も懸命に生きていたんだわ、きっと。わたし、臆病者だからよく分かるの」
ウーはそれを聞き、何も言えなくなってしまった。
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