雨のやまない国

6/9

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
 ニジカの家に傘を忘れてきたウーは雨に打たれながら自宅までの道をとぼとぼと歩く。  ウーはニジカに嘘をついている。王様が腕利きの魔術師を集めているなんて嘘。呪いを解く為に盛大に研究しているなんてのも嘘。この強力な竜の呪いを解くのは無理だと多くの魔術師が匙を投げ、王様や民衆もこの雨をとっくに諦めているのだ。  ウーがニジカに嘘をついた理由。それは日々衰弱して元気をなくしていくニジカに生きる希望を与えたかったからである。ニジカが好きな虹、それが見られるかもしれないと思えば彼女は元気を取り戻すのではとウーは考えたのだ。  だがそれは残酷な嘘でしかない。  ウーは立ち止まり、灰色の空を見上げてただ祈る。  神様、本当にいるのならニジカの病気を治して下さい。それが駄目ならたったの一度で構いません、ニジカに虹を見せて上げて下さい。  祈ることしか出来ない無力な自分が情けなくて、ウーはまた泣き出しそうになる。  するとその時、ザーザーという雨音に混ざってバサリッバサリッと鳥の羽音の様なものが聞こえてきた。それは頭上からで、ウーは耳を澄ませてそして気がつく。  厚い雨雲の中をまるで泳ぐように飛ぶ黒い大きな影が見える。翼をはばたかせて音を立てているのはその大きな影だ。 「……なに、あれ?」  ウーはぞっとして呟く。  得体の知れない大きなものが都の上を飛んでいる、恐怖と警戒心からウーは身を固くした。しかし雲にうつるその影はゆっくりと飛んでいき、都の近くの大きな森がある方向へと飛んでいった。  羽音と影が去り、ウーはほっと安堵する。そして胸に強く抱いた本に視線を落として、ぽつりと言った。 「……もしかして、竜?」  自分で言ってから、ウーは頭を横に振る。 「まさか、ね。本当に竜ならこんな街、滅ぼしてしまうわよね」  呪うほど大嫌いな都に何もせずに飛んでいくなんてありえない。きっと鳥類系の魔物(モンスター)だったのだろうとウーは自分に言い聞かて、雨の中を再び歩き出す。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加