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「今のりくは、バンドを知らない人がそのバンドのTシャツを着てもよいと?」
風花の問いに俺は肩をすくめる。
「音楽だけで食っていくのは難しいから、アーティスト側もグッズで稼がないと」
「あら現実的!」
真面目に語る俺を心愛が茶化す。
「今後トラブルを避けるにはどうしたらいい?」
参考までにと風花が聞いてくる。
そうだな……。俺は少し考えてから答えた。
「他人のファッションは否定しない。メタルヘッズ側が、バンTを着ている人がファンなのかファッションなのか、見極めることが必要かな」
風花はメモを取るフリをして指を動かしている。
「例えば、公式のTシャツは一生持つのではないかというくらい丈夫だけど、量販店のものはすぐヨレヨレになる」
「あーっ、そういうことか! あのヘヴィメタルみたいな名前の店舗でみたTシャツ、ロゴが伸びてた」
「伸びてたってなんですか?」
心愛が驚く。
「伸びてたのよ、文字通り。生地が安っぽいから」
わかる。その場合敢えてネタとして買って、部屋着にすることがある。
「結局俺は割り切ったんだよ。バンTを着てる人を見かけても、今はライヴやロックバーでしか話しかけないな」
「でもまだ、量販店でこのバンドを売るのは許せないとかあるんじゃない?」
風花が意地悪な笑みを浮かべて聞いてくる。
ある。SlipknotのTシャツを1500円で売るな。
〈完〉
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