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「このあたりで食べようか」
「いいですね。ちょうど日陰になってますしね」
大きな木の根本付近に腰を下ろして、早速フルーツサンドを頬張った。
「んーー、おいひぃ~」
口の中にクリームと甘いいちごが広がって幸せが押し寄せる。またがぶりと齧り付く。
「気に入ってもらえてよかった」
「どこで買えるんですか? 今度街へ行った時に買おうかな」
「街へ来ることあるのか?」
「買い出しに行ったり、先生のところへ行ったりするんで」
「なるほどね。時間があえば一緒に行くけど?」
「そんなお忙しいのに、申し訳ないです」
「遠慮することはない」
「うーん、じゃあ時間があえばお願いします」
「他のところでもいいぞ?」
「そうですね、ご一緒しましょう」
「めちゃくちゃ社交辞令に聞こえる」
「そんな事ないですよ。一緒に行きたいと思ってますよ?」
「ならいいけど。クリームついてる」
「どこです? これ結構食べるの難しいですよね」
意外と大きくて頬張るのが大変なのだ。
「ここ」
彼が指さしたところに指を持っていったけれど違っていたらしく「ここ」と言って取ってくれた。
「ごめんなさい。手を拭くもの……」
ハンカチを差し出すと「いいよ」と言ってその指を舐めた。ただ指を舐めただけなのに、色気を感じて少しドキリとしてしまった。気を紛らせようとカモミールティーを口に含んだ。
「はぁ、これから働かないといけないの嫌だ」
「そうですよねー。僕も今日は近所のおばあさんの家で草刈りのお手伝いがあるんですよね。暑いだろうな」
「報酬は出るのか?」
「お野菜とか卵を頂くことになってます」
「前も野菜をもらったと言っていたが、ちゃんと食べていけてるのか?」
「大丈夫ですよ?」
「困ったらいつでも言うんだぞ?」
「ありがとうございます」
「俺のそばにいてくれてもいいんだけど」
「えっ、第二王子様の側近の側近という事ですか!? 無理無理無理」
「いや……違……」
「お心遣いだけありがたく頂戴しておきますね」
「あぁ、うん……」
「時間大丈夫ですか?」
「そろそろ行かないと」
「じゃあ、行きましょうか」
のんびりというわけにもいかず、若干早歩きで森を後にした。
「それじゃ、お互いがんばりましょうね!」
「うん。また来るから」
「はい、お待ちしています」
いつものように光に包まれる彼を見送って、家の中へと入った。また会えるのに少し名残惜しく感じてしまったのはどうしてなんだろう。2つ並んだ釣り竿を見つめながら、うーん?と頭を悩ませた。
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