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テーブルの上片付けようかな。ゆっくりお茶も飲めないよ……。ん? これは新聞? フェリクス殿下だ。改めて見るとやっぱり美形だな。この方のすぐ近くでエミール様は働いているのか。まだ婚約者は決まっていないんだ。
「どうしたの? あぁ、フェリクス殿下か」
トレイを持った先生が新聞に視線を向けた。
「ものすごい美形ですよね」
「君も負けてないと思うけど」
「はい? 何を見ておっしゃっているのですか?」
「あぁ、そうだった。そういう設定だった」
「設定とかないですから」
「だよね」
先生は本当に気付いているんだろうか? 僕がずっと自分の姿を偽っていることを。
「食べてみて」
「頂きます」
皿に並べられたクッキーを1つ手にとって口の中に放り込んだ。
「ん、紅茶だ! 美味しい!」
「僕の愛情もたーっぷり入っているからね♡」
「それは……別に……」
「なんだよー、それはいらないみたいなこと言うなよー」
「すみません」
「まぁいいけどさ」
そう言って先生も1つ摘んで口に入れ「僕ってやっぱり天才だな」と自画自賛した。
「ふふふ。そうだ、先生、フルーツサンドの有名なお店知ってます?」
「知ってるー。でも、いつも人がいっぱいだって噂だから行ったことないな。行くかい?」
「いえ、今度一緒に行こうと誘われてるんで」
「誘われている? 誰に?」
また先生が前のめりになった。
「先ほどお話しした方です」
「そうなの? 君に気があるんじゃないの?」
「気があるなんて、そんな。友人ですし」
「ふーん? ちょっと調査しなきゃだな。その子の特徴は?」
そう言われて、初めて会った日に見たあの目を思い出した。
「透き通るような水色の瞳……」
「透き通るような水色の瞳?」
「初めて会った時、すごく印象的だったんですけど……。あれ? その次に会った時はそうでもなかったような」
そう言うと先生がなぜか笑い出した。
「あはは、なーんだ。何も心配することなかった」
「? 」
「やっぱり、ふたりは……そうかそうか」
「なんですか?」
「いや、楽しんでおいで」
「分かりました」
変な先生。今に始まったことではないけれど。それにしても、エミール様が僕に気があるなんて……そんな事あるわけない。
「はぁ、甘酸っぱいな」
「何がですか? 紅茶は普通だし?」
「なんでもないよ」
クッキーに手を伸ばして咀嚼しながら、ニヤニヤと笑う不気味な先生からの視線を交わした。
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