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初めてのお出かけ
約束の日――。楽しみで早く目が覚めた。近所へ散歩しかしたことがないから、どんな格好で行こうかと頭を悩ませたけれど、結局いつもと同じような格好に落ち着いた。お洒落な服なんて持っていないし、気合が入っていると思われるのも気恥ずかしい。
コンコンコン――
来た! 慌てて扉を開けた。
「おはよう」
「おはようございます」
「とりあえずセントラル駅まではまた転移でいいか?」
「大丈夫です」
彼に近づくとまた力強く抱き寄せられて、鼓動が跳ね上がった。前にも思ったけど、何故彼はこんなにもいい匂いがするんだろう。
「じゃあ、目を閉じて」
ゆっくりと目を閉じて彼に身を委ねた。
「目を開けてもいいよ」
そう言われて目を開けると、前に来た路地裏の風景が広がった。
「どこか行きたいところはあるか? まずはフルーツサンドの店にするか?」
「エミール様は?」
「そうだな、魔法書の店に行きたいかな」
「なるほど。まだあまりお腹はすいていないので、魔法書の店に行きましょうか」
「うん、じゃあ行こうか」
「あの」
「ん?」
「今日はお休みだと伺いましたが、1日お時間を頂けるのでしょうか?」
「もちろん」
「そうですか。よかった」
今日は1日彼と一緒に過ごすことができる。とても嬉しくて頬が緩んだ。僕を見て優しく微笑む彼と並んで歩き出した。
到着した魔法書の店に入ると、古い紙とインクの匂いがしてワクワクしてくる。お互い適当に見ようということになり、棚を眺めることに。時々離れたところにいる彼の顔を盗み見た。真剣な顔をして本を見ているエミール様がとてもかっこよくて内容が入ってこないなんてことを何度も繰り返してしまった。
「欲しいものはあったか?」
「あっ、いえ。大丈夫です」
「本当に?」
「はい、本当に」
いつもは買うのを迷うくらいほしいと思うものがあるのに、今日はそれどころではなかった。
「そうか、じゃあ行こうか」
「はい」
外に出て、フルーツサンドの店へ向かった。歩きながらふとアクセサリー店のショーウィンドウが目についた。飾られてあるネックレスの宝石がエミール様の目と同じ色だ。
「どうした? 気になるものがあったか?」
「ここ、少し見てもいいですか?」
「うん、構わない」
店内に入ってさっき見たアクセサリーを探すことにした。それは、目立つ場所に飾られてあって目を奪われた。耳飾りにブレスレットもある。それにしても……高い。欲しいけれど、流石に手が出ないな。頑張って働いてお金を貯めるしかない。
「何かあったか?」
「うわっ!」
「ん?」
「なんでもないです! 行きましょうか」
「いいのか?」
「はい!」
「……そうか。もう少し見ていてもいいか?」
「大丈夫です! ゆっくり見てください。僕も見てますので」
「うん、ありがとう」
ビックリした。気を取り直して他のものも見ることにした。ん? これは安いな。なるほど、本物の宝石みたいだけど、違うのか。こっちならまだ手が出せるかな。でも、どうせなら本物の宝石のほうがいいのかな。悩みどころだ。
結局買うことはせずに店を出た。すぐに決められなかったのだ。それから、フルーツサンドの店に行ったり、お互い気になる店に入ってみたり。楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
「あのさ」
「何でしょうか?」
「行きたいところがあるんだが」
「いいですよ?」
「少し歩くが、大丈夫だろうか?」
「平気です」
エミール様とならどこまでだって歩ける気がするから不思議だ。
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