特別な時間

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特別な時間

「先生、新しい仕事を始めたので、少し来れる頻度が下がるかもしれません」 「あれ、お給料足りなかった? 増やそうか?」 「いえ、十分なんですけど」 「けど?」 「エミール様にプレゼントを贈りたくて」 「ほぉほぉ、なるほどね」  またニヤニヤと笑い出した。先生ってエミール様の話をするといつもニヤニヤする。 「何がいいと思います?」  気を取り直して質問をなげかけた。 「そりゃ、ルシアンくんでしょ」 「はい?」 「めちゃくちゃ喜ぶと思うよ」 「どういう事ですか?」 「だから……やめておこう。純粋なルシアンくんには刺激が強すぎる」 「はぁ、そうですか」  先生は何が言いたかったのだろうか? よく分からない。 「何がいいかなー?」 「何かもらったの?」 「え? 別に……あの……」 「もらったんだね。何? なにー? もしかしてずっと触ってるそれ?」  ずばり言い当てられて否定もできず「はい……」と答えた 「おやおや、よく見たらその色。独占欲丸だしだな。大変そう……」 「?」 「こっちの話。ルシアンくんも身につけるものを贈ったら?」  「うん、そうですね。そうしようかな」 「彼が一番欲しいのは君だと思うけどね」 「何です?」 「何でもないなーい。あんまり無理しないようにね」 「ありがとうございます」  ――そうして仕事に明け暮れるという忙しい日を過ごし、久しぶりにエミール様とお会いする事になった。 「最近忙しそうだな。いない日が多いし」 「すみません、来てくださっていたのですね」 「あっ……うん……まぁ」 「すみません」 「今日も疲れてそうだし、無理しなくてもいいんだぞ?」 「いえ、エミール様と釣りに行きたいので、大丈夫です!」 「そうか?」 「はい!」  エミール様にお会いできることがこんなにも嬉しいなんて。疲れなんて一瞬で吹き飛んでしまった。 「つけてくれてるんだな、それ」 「もちろんです! 何だかパワーをもらえる気がするし」 「それでか」 「どうされました?」 「最近気だるい気がしていたんだ……」 「えぇ!?」  この石には生気とか魔力とか宿っているという事!? 僕が触るたびにエミール様の何かを吸い取ってしまっていたのか……? どうしよう、知らなかったとはいえ僕のせいでエミール様が……。 「申し訳ございません! エミール様。今は気分が優れないとかございませんか!?」 「ふ……ククク……」 「笑い事ではございませんよ!」 「ごめん」 「謝るのはこちらの方です!!」 「冗談」 「じょ……え?」 「めちゃくちゃ元気」 「もうー、やめてくださいよ。本当にどうお詫びしたらいいのか考えちゃったじゃないですか!」 「ごめんって」 「本当に何ともないんですね?」 「ないよ」 「よかったー。安心したらお腹が空いてきちゃいました。今日はエミール様が釣ったお魚も食べちゃいますからね!」 「うん、たくさん釣ってやるから」 「絶対ですよ?」 「分かってるって。今日は餌の調達もしてやるよ」 「いいんですか?」 「任せなさい」
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