婚約

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 先生に別れを告げなければならない。そう思っていたらタイミングよく呼び出しを受けた。 「何だか顔色が悪いね」  開口一番そう言う先生はやはり鋭い。ここのところあまりよく眠れていないのだ。 「そうでしょうか?」 「何かあったの?」 「実は……結婚することになりまして」 「えっ、そうなの? 全部すっ飛ばしてプロポーズなんて。やるなぁ、あの王子も」 「王子?」 「えっ、まさか、ちょっと……寝かせてもらえてないとか? 何かねちっこそうだもんね」 「あの、話が見えないのですが、王子ってなんです? 僕が結婚するのは北の辺境伯様ですけど」 「辺境伯? ……え、どういう事?」 「こっちのセリフです。王子って?」 「あー、マズイな。口が滑った。いやだって、彼だと思うじゃん?」  あたふたする先生を見てもしかしてという考えが頭に浮かんだ。 「もしかして、彼は王子なのですか?」 「えー、違う」 「違わないですよね? 繋がりがあるのは彼しかいないじゃないですか」 「うーん、そうだね。彼は第2王子のフェリクス殿下だよ」  誤魔化せないと踏んだのか先生はあっさりと認めた。第2王子!? 「第2王子。うそ、僕めちゃくちゃ失礼な態度を取っていたのでは。焼き魚食べさせちゃったし、虫も触らせちゃったし……」 「焼き魚? あぁ、釣りか」 「そっか。なんだ、身分が違いすぎる方だったんですね」  第2王子だったなんて。そんな方の事を好きになるなんて、最初から望みなどなかったんじゃないか。 「いやいや、待って」 「よかったです。区切りをつけられます」 「勝手につけるんじゃない。その辺境伯と結婚する事はもう決まった話なの?」 「えぇ、話は進んでいるかと」 「もう、あいつ何をしてるんだ。本気で運命変えてやろうかな」 「?」 「僕が君をもらうってこと」 「は? 冗談ですよね?」 「割と本気」 「あの、え?」 「でも君の心を手に入れるのは難しいだろうからやめておくよ。事態は急を要するな。一肌脱いでやるか」 「先生?」 「大丈夫。運命は変わらないよ。何も心配いらない」 「運命ってなんです? 先生ずっと仰ってますよね?」 「彼と結ばれる運命」   「なんですか? それ」 「僕はやることができたからせっかく来てもらったのに悪いんだけど、今日は帰ってくれるかい?」 「わかりました」 「次に会う時はとびきりの笑顔を」  頭をポンポンとされて先生と別れた。  彼はこの国の第2王子だった。あの瞳の色……どうして気が付かなかったのだろう。先生は結ばれる運命だなんて言っていたけれど、そんなの無理に決まっている。どう考えてもこんな僕が彼と結ばれるなどありえない。僕は、辺境伯様の元へ嫁ぐ。これが僕に定められた運命なのだ。
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