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そして、今の街に移り住んだ。母と暮らしていた家によく似た家を見つけて、そこに住むことにした。お金は使うことがなくて貯めていたものを少しずつ切り崩した。贅沢をしなければ生活ができる。街の人達は温かくて、何かと親切にしてもらい助けてもらった。
「この街のおかげで、少しずつ気持ちが前を向き始めていた時に、あなたと出会ったのです」
「そうだったのか。辛いことを思い出させてしまってすまなかった」
「いえ、大丈夫です」
「姿を変えていたのはそれが理由だったんだな」
「はい。不安で」
「その男に会った事は?」
「今のところありません。きっともう大丈夫だとは思います」
「でも、油断はできないか……。侯爵が君を引き取ることができていたら、そんな思いをさせずに済んだのに」
「え?」
「侯爵はね、君を引き取る段取りを進めていたそうなんだ」
「そうでしたか」
「でも、伯爵に妨害された」
「やりそうですね」
「そこで婚約させてあの家から出そうとした」
「婚約……ですか?」
そんな話一度も聞いたことがない。
「それも尽くなかったことにされた。そして、侯爵は君の家族のことを徹底的に調べて、今回の婚約話を思いついた」
「え?」
「君の姉はきっと断ると踏んだ。でも相手はこれまでとは違う格上の相手だ。断るわけにはいかない」
「僕を差し出すと考えられたのですか?」
「君の姉はプライドが高い。そして、伯爵は彼女に甘いと聞いていたそうだからね」
「すごい……ですね」
「もっと早く君を救い出しかったと後悔されていたがね」
首を振った。僕のために手を尽くしてくれていた。その事だけで十分だ。
「侯爵様に行き着いたフェリクス様もすごいと思うのですが」
「職権乱用だよ。これ程第2王子でよかったと思ったことはないね」
「ふふ、なんですか、それ」
それなのに、あっさりとその地位を手放した。僕を振り向かせる為だと言って。
「君と侯爵に血縁関係があるという事も証明されたよ」
瓶を振って僕に見せてくれた。透明だった液体が青色に変わっている。
「そうですか。僕と母は人を狂わせる何かがあるのでしょうか」
「ん?」
「伯爵は母を手に入れるために罪を犯した。そして、あなたは第2王子という地位を手離した」
「うーん、そうかもしれないな」
「やっぱり……」
「君を始めて見たその日から、俺は君以外ほしくないと思うくらいに狂わされてるから」
「ずっと探していたとおっしゃられていましたが、お会いした事があったのでしょうか? すみません、覚えていなくて」
「うん、昔にね」
「そうなのですね」
「俺が君を見かけた事があるだけで、直接会った事はないんだ。よく考えたら俺も君をつけ回していた男と変わりないな。勝手に君のことを見ていたのだから」
「でも、あなたは僕に何かしたわけじゃない」
「それはそうだが……」
「聞かせてもらえませんか? 僕を見かけたという日のことを」
懐かしむように目を細めたフェリクス様がゆっくりと話し始めた。
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