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プロポーズ
「昔、王家主催のガーデンパーティがあったんだ」
「ガーデンパーティ?」
母の仕事場に連れて行ってもらった事が何度かあるけれど、その中の1つだろうか? 王家主催のパーティー会場に出くわしたことはない気がするけれど。
「俺は会場に行きたくなくて、適当にぶらついていたらさ」
「はい」
「迷子になってしまって」
「……え?」
「とりあえず彷徨っていたら、人の話し声が聞こえたからそっちの方へ行ったんだよ」
「なるほど」
「木陰から見ていたら、剪定している男性の隣で一生懸命草をむしっている君が見えた」
「何だか恥ずかしいな。きっと泥だらけだっただろうし」
「うん、泥だらけだった。でも、なぜか目が離せなかった」
そんな事があったなんて知らなくて気恥ずかしくなった。
「そのまま見ていたら、君の母君が今日はここで王様たちがパーティをしているんだよと話しだした。でも、君は全く興味なさそうに草むしりを続けていた」
「何かそんなことあったような」
「きれいなお洋服を着てパーティに出てみたいと思わない?と聞いた母君に君は、全然興味ないと言った後に、だって疲れそうで嫌と言ったんだ」
「あぁ、言いそうですね」
「思わず笑ってしまったんだよな。そんな事言う人を初めて見たから。俺も興味ないから行かないと言えたらいいのにと思ったよ」
「恥ずかしいです……」
「その後に、それにお腹いっぱい食べれなさそうだし、こっちのほうが楽しいと言って母君に笑顔を見せた。その笑顔が驚くほどに眩しく見えた」
「眩しくですか?」
「当時は、愛想笑いを浮かべながら媚を売るような大人とか気難しい顔をした大人に囲まれていて、自分自身も心の底から笑うことがなかったから純粋に笑う君の笑顔は輝いて見えたんだよ。それで、気になって話をしてみたいと思った」
「そうだったんですね」
「その日は連れ戻されて話しかけることは叶わなかった。ずっと君の笑顔が忘れられなくて、それから数年後何度か見かける事があった。たぶん君が伯爵に連れ回されていた時だったんだろうな。話をしたくてひとりでいる君の元へ向かうのに、いつも幻だったかのように君は消えてしまう」
確かに父が挨拶をしている時にひとりで待っていることがよくあった。でも、すぐに終わって父の元へ戻るから消えてしまったように見えたのだろう。
「僕が伯爵と一緒にいるところは見なかったのですか?」
「見たことがなかった。見ていたらすぐに分かったのに」
「そうでしたか」
「知りたくて仕方がなくて、でも誰なのか分からない。ずっと君を探していた」
「僕のことを……」
「ここへ初めて来た日、もしかしたらという期待でいっぱいだった」
そういえば、フェリクス様は僕を見て少し残念そうな顔をしていた。そういう事だったのか。
「でも、違う見た目をしていた」
「その通り」
懐かしむようにクスリと笑った。
「でも、君に興味を持った。今になって思えばルシアンはあの頃と全く変わらない考えをしていたんだよな。見た目にばかり囚われて本質が見えてなかった」
「フェリクス様は、僕のどこを好きになってくださったのですか?」
「内面に惹かれたかな。思いやりがあって優しいところとか、人を貶めるようなことを言わないところとか、素直で努力家で、一緒にいると自然と心が暖かくなるようなそんな人柄とか……挙げだしたらきりがないくらい好きなところはある。もちろん見た目も好きだと思ったけど」
「恥ずかしいですね、改めて言われると」
でも、とても嬉しかった。今まで、興味を持たれるのは見た目ばかりで、内面を好きだと言ってくれた人はいなかったから。
「それと、もう1つ君に伝えたいことがあるんだが」
「伝えたいことですか?」
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