プロポーズ

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 まだ何かあるのだろうか。身構えていると懐から箱を取り出して僕の前に差し出した。中に入っていたのは、輝く宝石があしらわれた指輪だった。 「受け取ってほしい」  宝石の大きさにギョッとした。きっと物凄く高価なものだ。思わずブンブンと首を横に振った。 「こんな高価なもの頂けません」 「これはさ、母上から譲り受けたものなんだ。いつか大切な人ができてプロポーズする時に贈りなさいと」 「プロポーズ?」 「贅沢な暮らしをさせてあげることはできないかもしれない。でも、いつも君が笑顔でいられるように、一生愛し、守りそばにいることを誓う。俺と結婚していただけませんか?」 「本気ですか?」 「冗談でこんな事言わないから」 「ですよね」 「素直な気持ちを聞かせてくれないか?」 「僕は辺境伯様のところへ嫁がなくてもいいんですよね?」 「あぁ、それは大丈夫だ。彼も君を助けるための協力者だから。誰を選ぶかはルシアン次第なのだが……」  胸が一杯で言葉が出てこない、こんな事あって良いのだろうか。大好きな人から求婚をされるなんて。 「ルシアン?」  涙で前が滲んでしまう。ふうっと一呼吸おいてから目尻を拭い、真っ直ぐに彼を見つめた。 「お受けしたいです。あなたのそばにずっといたいです」   「撤回できないけど大丈夫か?」 「大丈夫です。フェリクス様こそ、もう本当に王子様には戻れませんよ? いいんですか?」 「元々王位には興味なかったし、優秀な兄上がいるから問題ない。とは言っても、兄の補佐はしなければならないんだが」 「そうなんですね」 「はめてみてもいいかな?」 「はい」  立ち上がった彼が僕の前に膝まづいて、指輪をはめてくれた。その指にそっと口付けられてドキリとした。 「王子様みたいですね」 「元王子だからな」 「ふふ、そうでした」 「ルシアン」 「何ですか?」 「絶対幸せにするから」 「もう十分ですけどね」 「ん?」 「フェリクス様のそばにいられるだけで、僕は幸せなので」  勢いよく立ち上がった彼に、その勢いのまま抱きしめられた。 「わわっ」 「どうしてそんな」 「いっ……痛いです」 「キスしてもいい?」 「え……あの……心の準備が」 「ダメか?」  抱きしめる力を弱めた彼がションボリした顔で僕を見つめた。僕の愛おしい人。 「冗談です」  両頬を手で包みこんで、顔を寄せそっと唇を重ねた。初めてで、少し震えたことに気づかれただろうか? 顔を離すと、ものすごく見開いた目で見られてギョッとした。 「あの……おかしかったですか? 初めてでよく分からなくて」 「いや、おかしくない。俺、早死するかもしれない」 「え?」 「心臓が持たない……」 「あの、フェリクス様?」 「今のちょっとよく覚えてないからもう1回いい?」 「やっ、待って」  ガシッと両腕を掴まれてあっという間に唇を塞がれた。僕の初めて……覚えていないってどういう事だ!? この口づけが終わったら文句を言ってやる。そんな事を思っていたのに、全然終わらなくて何なら唇の隙間から舌まで入ってきて、何も考えられなくなってしまった。 「んぅっ……」  唇が離れたと思ったら「好きだ」と囁かれて、唇が腫れてしまうのではないかと思うくらい何度も口づけられた。 「もう……いいですか?」 「今日は……うん、我慢する。ゆっくり進んでいこう」    あまり信用ならないけど頷いておいた。 「これからどうする? 俺の部屋に来る?」 「ゆっくり進んでいこうって言いましたよね!?」 「……別に何もしない」 「今日はゆっくり頭の中を整理したいので、お帰りください」 「冷たくないか?」 「普通ですが?」 「寂しい……」 「恋人になったのですから、いつでも会えるでしょう?」  恋人って……。自分で言っておいて恥ずかしくなってきた。 「そうだけど……」 「フェリクス様は転移できるのですし」 「そうだよな」 「そうです」 「いつ来ても問題ないよな?」 「問題ありませんから」 「分かったよ。今日は帰る。やる事はまだあるしな」 「はい」  あの人の罪を暴いて、裁きを受けてもらう。それだけは絶対に成し遂げなければならない。今日は1人で頭を整理しないとパンクしてしまいそうだ。これからのことも考えないといけないし。  彼を見送るために立ち上がった。 「じゃあ、ゆっくり休んで」 「はい。色々とありがとうございました」 「また来るから」 「お待ちしてます」  軽く口づけを交わしたあとに、彼はいなくなった。ヨロヨロと机に戻り椅子に座った。そのまま頭を机に乗せて「これ……夢じゃないよね?」と独り言た。
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