謁見

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「いいよ」  目を開けると見慣れない部屋に来ていた。ここはどこなんだろう? 「ここ、俺の部屋」 「フェリクス様の?」  部屋には執務机のような大きな机があり、その前にソファとテーブルが置かれてあって、扉がいくつかあった。 「着替えてくるから、待っていてくれ」 「分かりました」  ここがフェリクス様の部屋。ソファに座ってみようかな。ベロア素材の生地が高級感を物語っていて若干気が引けた。 「おぉっ」  沈み込むという程ではないけれど、程よいスプリング効果で座り心地は抜群にいい。それにしても、広い部屋だ。他にも部屋があるんだよね?彼と一緒に住むならどんな家がいいのだろう。やはり大きなお屋敷とかになるのかな。掃除が大変そうだ。 「お待たせ」  扉が開いて入ってきた彼は正装なのか、カッチリとした服にマントを羽織っていて、あっ、やっぱり王子様なんだなと思わされた。髪も撫でつけるようにセットしてあって見惚れるくらいかっこいい。いつもかっこいいんだけど。本当に僕がこの人の婚約者でいいのだろうかと不安になってくる。 「どうした?」 「かっこいいですね」 「惚れ直した?」 「はい、とても」 「そうなのか? こういうのが好きなのか?」 「見慣れないからですかね? いつもかっこいいですけど、なんというかオーラみたいなものが加わってさらにかっこよくなっているというか」 「そんなに褒められると思わなかった」  照れたように顔を赤くするフェリクス様を見て、こういうところが可愛くてとても好きだなんて思ってしまう。 「隣に立つと違いがありすぎそうですね。どうしよう」 「俺なんか霞むほど美しいと思うが」 「はわっ」 「仕返し」  にやりと笑うフェリクス様にやられた。 「そろそろ行こうか」 「はい」  彼の手を取って並び立った。  長い長い廊下に僕たちの足音だけが響き渡る。心臓が口から出そうなほどに緊張は増す。重厚感のある大きな扉の前にたどり着いた。この奥に……。どうしよう、もう帰りたい。隣を見上げると優しく微笑む彼がいて、ダメだしっかりしろと喝を入れる。  扉を開けてもらい、その中へと足を踏み入れた。まだ顔を上げてはいけない。目線を足元に移しながら一歩また一歩前へ進んでいく。彼が立ち止まったタイミングで足を止めて、跪いた。震えが止まらない。 「面をあげよ」  低音の重厚感ある声。これが王様の声なのか。顔を上げてまっすぐに前を見つめると、王様、王妃様、そして少し離れたところに王太子様が鎮座されていた。王女様はいらっしゃらないのか。放たれている圧倒的なオーラにたじろいでしまう。 「お……お初にお目にかかります。ルシアン・ド・ガルシアと申します」 「堅苦しいのはなしよ。ここには私達しかいないから肩の力を抜いてちょうだいね」  優しい王妃様の声にそう言われてもと恐縮してしまう。この国のトップにいる方たちの前で肩の力など抜けない。 「ようやくお会いできましたね。ずっとこの日を楽しみにいていたのですよ。まったく、この子には困っていたから本当に良かったわ」 「母上」 「だってそうでしょう? 初恋の人が忘れられないから婚約はしないと散々駄々をこねて、あなたを探し出すために舞踏会まで開いて」  そうだったのか、初耳だ。 「それは言わないでくれと言ったじゃないですか」  隣から慌てるフェリクス様の声が聞こえた。 「あら、そうでしたわ。ついうっかり」  扇子を広げて優雅に微笑まれた。一連の動作が洗練されていて美しい。 「この子と婚約してくれてありがとう」 「それにしても本当に美しい。何か困ったことがあったらいつでも兄に言いなさい」 「あら、ずるいわ。私に言ってくれていいのよ?」 「いや、そこは父である私だろう」  戸惑いながら顔を右往左往しているとフェリクス様が助け舟を出してくれた。 「やめてください。ルシアンが困っています」 「そうね、ごめんなさいね。嬉しくてつい」 「私達は君を息子として迎えられることを嬉しく思っているからね」 「身に余るお言葉ありがとうございます」  僕みたいな男、歓迎してもらえないかもしれないと不安だった。でもその不安を吹き飛ばしてくれるような温かい言葉をたくさん頂いた。  結局、時間いっぱいまで色々と質問をされて、ようやく退室となった。
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