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祖父の家へ
今日はいよいよ、祖父の元を訪れる日だ。フェリクス様も一緒に行くことになっている。転移すればすぐなのだが、のんびりと汽車に乗っていこうということになり、久しぶりにふたりで出かけられるとあって朝からワクワクしている。
「ルシアン、準備はできているか?」
「バッチリです」
「じゃあ、行こうか」
「はい!」
フェリクス様に言われて、変化していくことになった。彼も姿を変えている。
「その姿を見るのも久しぶりですね」
「確かに」
「知らない人みたいで、違和感があります」
「これが普通だったのにな」
「ふふふ、そうですね。あっ、おはようございます! ちょっといいですか?」
「うん」
声をかけてくれたおじいさんと立ち話をして別れた。
「すみません。おじいさんお話大好きだから」
「構わないよ」
その後もちょくちょくご近所さんに遭遇して話をしたり荷物を運んだりしてしまった。
「相変わらずだな」
「すみません……つい癖で」
「いや、ルシアンのそういうところ俺は好きだよ」
「ありがとうございます」
そんな事を言われると思っていなくて照れてしまった。
「照れてるだろう?」
「別に照れていませんよ」
「顔が赤い」
「フェ……エミール様がそんな事言うから」
「ふっ……」
「もう、笑わないでくださいよ!」
「ごめん」
次第に大笑いし始めるフェリクス様に釣られて僕も笑ってしまった。ちょっとしたことでも楽しくなるから不思議だ。
駅舎に到着し、やってきた汽車に乗り込んだ。
「エミール様は汽車に乗ったことがあるのですか?」
「あるよ? 学生の時に」
「学生時代。どんな感じだったんだろう?」
「別に普通だ」
「普通じゃないでしょ? きっとハーレムのような感じだったに違いない」
いつも周りには美男美女がいて、みんなの憧れの存在で……もしかしたら恋人もいたかもしれない。いや、絶対にいた。素敵な人はたくさんいるんだもん。想像していたら悲しくなってきた。
「そんなものないよ。恋人もいなかったし」
「嘘だぁ」
「俺はさ、周りが引くほどルシアンのことしか見えてなかったから」
「本当ですか?」
「初恋をずっと引きずってきた男なんだよ」
「初恋……」
「全部ルシアンが初めてだから、安心していい。何を言わされてるんだ、俺は」
「ずっと僕のこと想ってくれていてありがとうございます」
「うん」
「フェリクス様に出会えてよかったです」
僕は隣にいるフェリクス様を一生大切に想って生きていきたい。いや、生きていかないといけない。少しでも好きでいてよかったと思ってもらえるように。
「俺の初恋を実らせてくれてありがとう」
そう言って肩に頭を乗せてきた。
「エミール様? 眠いのですか?」
「ちょっと恥ずかしくて顔を合わせられない」
「なんですか、それ」
くすりと笑って僕もフェリクス様の方にもたれかかった。怖くなるくらいに幸せだ。
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