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「ふたりはもう住むところを決めたのかい?」
「いえ、まだです」
「ここはどうだろうか?」
「えぇ!?」
「わしは離れに住まわせてもらうから、ふたりの邪魔はせんし。執事やメイドたちもおるし」
「お祖父様が離れだなんて。もしここに住まわせていただくことになっても僕たちが離れを使うべきです」
「わしはどこでもいいんじゃよ。孫と暮らすことができるなんて夢のようだから」
「でも……」
彼の方を見ると「俺はどこでも構わないよ」と言ってくれた。とてもありがたい申し出だ。何と言っても両親が出会った場所であり、母様が手入れしていたあの庭にとても心を惹かれた。
「あの……ここで暮らしてみたいです」
「よかった。いずれ、すべてをルシアンに譲るつもりでいるから」
「でもお仕事の事とか分からないし」
「フェリクスくんに任せておけばいい。優秀な執事もおるしな」
そう言って隣にいる彼を見た。彼は大丈夫だというかのように優しく微笑みながら頷いてくれた。
「そんな……」
「これからはのんびりすればいい。苦労はさせないと宣言しておったもんな?」
「もちろんです。ルシアンのために生きていくと心に決めていますので」
「うんうん、そうじゃなかったら大事な孫はやらん」
「お祖父様」
「つらい思いをさせてしまった。せめてもの償いだと思ってくれればいい」
「僕は別に……」
「わしの孫とは思えんくらいできた子じゃなぁ」
「全然、そんな事ないです」
「そうだ。ルシアンは食べるのが好きだと聞いてね。色々と用意してあるんだ」
「わぁ、ありがとうございます。楽しみです。あの、庭園を見てもいいですか? その後にお父様のところへ行きたいのですが」
「うん、見ておいで」
微笑む二人に見送られて、フェリクス様と一緒に庭園へ向かった。
「きれいですね。これは薔薇でしょうか?」
「うん。でも珍しい色をしている」
「僕がここの手入れをしたいです。それに領地のことも学んでいきたい」
「やりがいがありそうだな」
「はい! 頑張ります!」
「ルシアン、こっち」
「なんです?」
少し影になったところに入ると、そっとキスをされた。
「こんなところで」
「きっと君の父上と母上もしていたと思うな」
「そうでしょうか?」
「ふたりが好きだったこの場所を俺達が受け継げるなんて幸せな事だな」
「はい。とても幸せです」
サァっと風が吹いて花びらが舞った。歓迎されているようで嬉しくなった。
「ついてる」
髪についた花びらを取ってくれた。
「ありがとうございます」
「父上に会うの緊張するな」
「そうなんですか?」
「君をもらってしまったんだし」
「大丈夫ですよ。お父様もきっと喜んでくれます。こんなに素敵な人が僕の旦那様だなんて」
「ルシアン」
「わわっ、急に抱きしめないでくださいよ」
「どうして、そんなに可愛いんだ」
「いや、可愛くないでしょ」
「いい匂いもするし」
「薔薇の香りじゃないですか?」
「ルシアンだよ。俺を酔わせるような匂い」
フェリクス様が首筋に顔を埋めて匂いを嗅ぎ始めた。
「あはは、くすぐったいです」
「ごめん」
「いいですけど」
顔を見合わせてもう一度軽くキスをした。
「行こうか」
「はい」
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