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手を繋いで門の方に向かうと女性が待っていた。
「すみません、お待たせして」
「いえいえ、お庭いかがでしたか?」
「とても綺麗でした」
「私ね、あなたのお母様知っているんですよ」
「そうなんですか!?」
「綺麗で優しくて、花がよく似合う方だった。まさか息子さんとお会いできるなんて。それもクレマン様との」
涙ぐむ彼女を見て、父と母はたくさんの人に愛されていたんだなと感じた。そんなふたりの息子になることができて誇らしい。
「ありがとうございます」
「本当によく似ていらっしゃる」
彼女からも父と母のことを教えてもらった。父はよく食べる人だったらしく、お土産と言って美味しいものを買ってきていたそうだ。そんな父にまたですか?と母は呆れた顔をしていたらしい。何だか微笑ましい2人だ。
「到着しましたよ」
父と祖母が眠る墓標に案内してもらった。眺めが良いし、とても静かだ。
「母様もここで眠らせてあげられたらよかったな」
「きっと空の上で仲良く過ごしていると思いますよ」
「うん、そうですね。きっとそうだ」
空を見上げるととてもきれいな青空で、そこにいるであろう父と母に僕の夫になる人だよとフェリクス様を紹介した。
僕には勿体ないくらい素敵な人でね、きっとふたりも大好きになると思う。だから安心して、ふたりでゆっくり過ごしてね。
隣を見るとフェリクス様がすごく真剣な顔をしていた。ちゃんと挨拶してくれてるんだろうなと感じて嬉しくなった。
ほらね、素敵な人でしょう?
「もう、いいのか?」
「はい。またいつでも来れますし」
「では、帰りましょうか」
もと来た道を戻って、お祖父様の屋敷に到着した。部屋の中に入ると、慌ただしく食事の準備をしてもらい、美味しい料理に舌鼓みを打った。
その後はまたお話したり、ちょくちょく出されるスイーツを摘んだり、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。そして、夕食もご馳走してもらう事になった。
「今日はもう遅いし、泊まっていったらいい」
「だ……」
「それではお言葉に甘えて」
にっこり微笑むフェリクス様を見ると余計なことは言っちゃいけない気がして「そうさせてもらいます」と答えた。
「よかった。実はもう準備してあるんじゃ」
夕食を食べて、お腹いっぱいになった僕たちは離れの方へ案内された。
「明日の朝、朝食をご用意しますので、ごゆっくりお休みくださいませ」
「おやすみなさい」
案内してくれたメイドさんにお礼を言って、2人きりになった。
「フェリクス様?」
「ん?」
「転移したらすぐに帰れますよね?」
「いいじゃないか。好意を無下にしたら申し訳ないだろう?」
「そうですけど」
「さぁ、シャワーを浴びよう」
「そうですね。今日はゆっくり休みましょう」
「は?」
フェリクス様の動きが止まった。
「え?」
「冗談だろ?」
「何がです?」
「寝る前にすることがあるだろう?」
「クリームを塗ること?」
「そうじゃなくて」
分かってる。きっとそうなのだろうということは。
「……エッチな事ですか?」
「そうだよ」
「ここで!?」
「他にどこがある?」
「シーツとか汚れちゃわないですか? それにベッドは2つなのでは?」
「見てみるか?」
「そうしましょう」
階段を上がって、順番に部屋を見ていくことにした。
「ここじゃないですね」
扉を閉めて、隣の部屋を覗いた。
「ここだ」
「1つだな」
「あれ?」
2つのベットがくっつけられて1つになっている。
「こんなものまである」
ベッドサイドに向かったフェリクス様がそこに置かれた小瓶を手に取りユラユラと揺らした。
「それは何ですか?」
「潤滑油」
「潤滑油!?」
「俺たちは100%すると思われているぞ」
「えぇっ!? 恥ずかしすぎませんか」
「婚約してるんだから普通だろ。みんなしてるし?」
「普通……なのかな?」
後退るとジリジリと距離を詰められた。
「普通普通」
「ひっ」
「絶対に逃さないから」
壁際に追い詰められて怖いことを言われた。
「はい……」
答えはそれ以外許されない気がした。
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