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新婚生活
「フェリクス様、起きて下さい」
「……うーん」
「フェリクス様! 王太子様とエミール様に叱られてしまいますよ?」
「うん……」
「起きろー!!」
「……起きてるよ」
「目閉じてたじゃないですか」
「おはよう、ルシアン」
「おはようございます。あっ、こら」
「ちょっとだけ」
「おしり触るのやめてください。あっ……」
「悪い、手が滑った」
「もう、今日はお休みじゃないんですからね?」
「分かってる」
「起きましょうね?」
「仕方ない」
ふう……やっと起きてくれた。
僕たちは無事に結婚し、お祖父様のところに越してきた。結局離れは譲らんというお祖父様に根負けして本宅に住んでいる。有り難いことに執事のベルトランさん、メイドの皆さんは僕たちのお手伝いもしてくれていて、とても快適に過ごすことができている。
ただ、困っていることはある。フェリクス様の精力が強すぎることだ。ここに越してくる前も、ほぼほぼ毎日僕の家にやってきては僕を抱いた。そして、今も毎日抱かれている。もう、眠くて眠くて仕方がない。フェリクス様はというと超元気だ。「眠くならないのですか? 」と尋ねたけれど「全然。ルシアンを抱くと調子が良くなる」というおかしな発言をされた。先生にもらった回復薬が役に立つ日が来るとは……。それももう少しでなくなる。先生にバレずに作ることはできないかと頭を悩ませている。
ダイニングルームに行くと、いつかお墓の案内をしてくれたアンナさんが朝食の用意をしてくれていた。
「おはようございます、奥さま」
「その呼ばれ方嫌だな。ルシアンでいいって言ってるのに」
「申し訳ございません。つい癖で」
「手伝います」
「駄目です」
「いいじゃん」
「やることがなくなってしまいます」
「いいよいいよ、のんびりしていて?」
「お給料泥棒になってしまいます」
「大丈夫だよ。色んなことやってくれてるんだから、ちょっとぐらい平気さ」
そう言って配膳の手伝いを始めた。
「本当に……」
「どうしたの?」
「何でもありません。ありがとうございます。あっ、旦那様、おはようございます」
「おはよう。いい香りだ。もう少しこっちへ」
置いた僕の食器を自分の方に近づけ始めた。
「食べにくいから近づけるのやめてくれません?」
「食べさせにくい」
「餌付けするのもやめて下さい」
「ふふふ」
「笑われたじゃないですか!」
「コホン……失礼致しました」
「全部揃ったな? 食べようか」
「それでは私は失礼いたします」
「うん、ありがとう」
椅子まで近づけてる……。毎朝毎晩、何度言っても治らない。
「はい、ルシアン」
「もう、僕子供じゃないのに」
「口を開けて食べる瞬間のルシアンはとんでもなく可愛いんだぞ? 知らないのか?」
「知りませんよ!」
「それを見ないとやる気が出ない」
「ほんとたまに狂ってますよね。あむっ」
「そうかな? 普通だが」
「もういいです。今度はこのサラダお願いします」
「分かった」
「あーん」
「……」
「見てないで口に入れて下さい。口を開けて待ってるの恥ずかしいんですけど」
「はっ、すまない」
「もう」
咀嚼しながら次は何にしようかなと考える。こんな感じで食事は進んでいく。
「そうだ、今日は先生のところに行ってきます」
「そうか」
うわ、嫌そう。気にしていたらきりがないけれど。
「まだ続けるのか?」
「そうですね。勉強になりますし」
「そうか」
「もう、そんな嫌そうな顔しないで下さいよ。心配しなくても僕はフェリクス様が1番ですから」
「ルシアンを見られるのが嫌なだけだ。最近色気まで加わってきたし」
「え、色気あります?」
「嬉しそうだな」
「僕子供っぽいなと常々思っていたので、色気があるのは大人って感じするじゃないですか?」
「まぁ、可愛いに変わりはないがな」
「目指せ、大人の男! そして、筋骨隆々!」
毎日筋トレをしているのだ。やっぱり筋肉質の体には憧れがある。
「まだ諦めていないのか」
「最近筋肉ついてきたと思いませんか?」
「思いません」
「そうかなー? ほら、力こぶありません?」
ムンっと腕を曲げてみる。
「ありません」
「むー」
「ルシアンはきっとそのままなんだよ」
「そうなのでしょうか」
「俺好みの体」
スルリと体のラインをなぞって、舌で唇を舐めた。それがとても官能的で今日がお休みならよかったのになどと不埒な事を考えてしまった。
「さてと、そろそろ行くか」
「お見送りします」
玄関までついていき、軽く口づけを交わして「いってらっしゃい」と手を振った。
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