新婚生活

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「さてと、僕も行こうかな」  鞄を取りに行って、階段を降りるとちょうどアンナさんと出くわした。 「出かけてきます」 「お気をつけて。知らない人について行ってはいけませんよ」 「子供じゃないんだから」 「心配です」 「だーいじょうぶ。おみやげ買ってくるね!」 「いってらっしゃいませ」 「行ってきます」  外に出て、のんびりと坂道を下る。また誘惑ストリートを通り抜けないといけないことがつらい。食べたい欲をグッと堪えて汽車に乗った。先生のところまでは前よりも近くなった。 「せんせーい、こんにちは!」  挨拶しながら扉を開けると先生は案の定いなかった。今のうちに薬作れないかな。書物が置いてある部屋を目指して階段を上がった。作業部屋を覗くと何かに没頭している。よし。 「えーっと、魔法薬の本は……」  タイトルを確認しながらお目当ての本を探す。とんでもない量があるから、探すのも一苦労だ。 「あっ、あった!」  一応薬草は準備してきたけど、念の為確認しようと本をめくり、ページを開いて材料を指でなぞった。ある、ある、ある……しまった、これ買ってない。これだけお借りしよう。階段を降りて薬草庫へ立ち寄り準備完了。薬草を台の上に並べ、本を見ながら混ぜ合わせていく。 「ルーシーアーンくーん」  いつの間にか背後に現れた先生が手元を覗き込んだ。 「ひゃぁっ」   「一生懸命何を作っているんだい?」 「いや……その……」  隠そうとしたが時すでに遅し。 「んー? おやー?」 「見ないで下さい」 「か・い・ふ・く・や・く?」 「見ないでって言ったじゃないですか!」 「そっかそっかー、なんかつやつやしてると思ったら、なるほどねー」 「恥ずかしい……」 「言ってくれれば作るのに。王族って特殊だからね」  先生が調合の手伝いを始めてくれた。手際よく薬草をすり潰し、混ぜ合わせていく様は流石だ。 「特殊?」 「うん。子孫を残そうとする力が強いからか精力が強いんだよ」 「そうなんですか」 「それに、彼は若いしねぇ。まぁ、頑張って」 「はい……」 「すぐに子供ができそうだね」 「一応避妊薬を飲んでいるんです」 「そうなの?」 「しばらくは二人がいいって」 「一生二人がいいとか言いそうじゃない?」 「あー、確かに。先の事は分からないですから」 「まぁ……何も言わないでおくよ」 「見えてるんですね?」  僕の問いかけには答えずに「はい、出来上がり」と楽しそうに言った。 「いつの間に……」 「これからは言ってくれればいいからね?」 「ありがとうございます。でも、勉強したいので」 「真面目だなぁ」 「よし。それじゃあ、ここ片付けますね」 「ありがとう」  先生の家をきれいにし、魔法の指導をしてもらったあと家路についた。最寄り駅に到着する前から何を買って帰ろうかということで頭の中はいっぱいだ。前に気になったバウムクーヘンは買うとして、あと2つくらい買おうかな。到着して、ざっと見て回ることにした。 「お兄さん、よかったら1つどうぞ」 「わぁ、ありがとうございます! 頂きます!」    うーん、美味しい。これ、いいな。いや、でも決めるのはまだ早い。 「すみません、少し考えます」  あれこれ見て悩みに悩んだ末に買ったお土産を手に持って、坂道を登り始めた。 「ただいまー!」 「おかえりなさいませ。まぁ、たくさん買ってこられたのですね」  出迎えてくれたアンナさんが目を丸くした。 「うん、お土産。1つに絞れなくて」 「ふふふ」 「どうしたの?」 「いえ、あなたのお父様も1つに絞れなかったのかなと思いまして」 「あぁ、いつもたくさん買っていたと言ってたもんね」 「えぇ」 「よし、お祖父様とみんなも呼んでお茶にしよう」 「皆も……ですか?」 「ダメ?」 「ルシアン様がそうおっしゃるなら」 「よし、じゃあお茶の準備するから、皆に声かけてくれる?」 「準備は私共が致しますから」 「いいからいいから。頼んだよー」 「本当にそっくり過ぎて懐かしい……」  皆で食べると美味しいもんね。喜んでくれるといいな。 ◆◆◆    ――コンコンコン 「大旦那様、ルシアン様がお茶をと」 「お茶?」 「何やらたくさんお土産を買ってこられたようで」 「そうか、それじゃあ行こうかな」  立ち上がってベルトランとともに歩き出した。 「ルシアン様が来られてから屋敷が明るくなりましたね。よく我々を気にかけてくださるお優しい方で、亡きクレマン様に似ておられる」 「そうじゃな、皆の顔が明るくなったとわしも思う」 「旦那様のフェリクス様は元王族とは思えないほどに謙虚で優しいお方ですし」 「確かにできた男よ。わしの孫は見る目がある」 「仰る通りでございます」 「ルシアン。名は体を表すというがまさにその通りだと思うよ」 「光……ですか?」 「あの子はわしにとっても皆にとっても光のような存在だから」 「たしかにそうですね」 「長かったな」 「はい……左様でございますね」  扉を開けると楽しそうに準備をするルシアンの姿が目に入った。 「あっ、お祖父様! お待ちしておりました!」  満面の笑みを浮かべるこの子とあとどのくらい一緒に過ごすことができるだろうか。願わくば、一秒でも長くこの子のそばに。
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