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「でも、竿は1つしかないんですよね」
「なら作ればいい。糸はこのマントを加工して、針はこれでいいか」
マントを破り、耳につけていた飾りを無造作に取り外した後、杖を取り出して呪文を唱えるとめちゃくちゃ高そうな針と糸が出来上がった。
「そこの薪をもらってもいいか?」
「どうぞどうぞ」
薪は細長い棒に生まれ変わり、あっという間に釣り竿が完成した。さすが第二王子様の側近。魔力も技術も桁違いだ。
「できた! いい感じじゃないか?」
「すごいです! やはり側近の方ともなると魔法の腕も一流なのですね」
「君もできるんじゃないのか?」
「いえ、僕は全然」
「魔力があるのに?」
「あっても使い方がわからないので」
「学校には?」
「普通科へ」
「はぁ!? 君の父君は何を考えているのだ?」
きっと何も考えていない。あの人は僕の見た目にしか興味がなかったから、僕に魔力があることを知らないのではないだろうか。
「たぶん知らないと思いますので」
そう言うとますます理解できないといった顔をした。
「教えるからやってみるといい」
そう言ってまたマントを破ろうとした。
「待ってください。そんな高そうなマントをビリビリにしないで」
「まだ着ることができるから構わないが?」
「いやいや、側近の方がそんなボロボロを着ていたらおかしいでしょう?」
「ふむ。では、別のものに変えればいい。何がいい?」
「これを丸ごと作り変えるのですか?」
「そうだ。そうやって何度か直して使っている」
「なるほど」
新しいものを次から次へと買うというのではないんだ。高給取りなのに、意外と堅実だ。
「では、上着に」
「よし。杖はあるか?」
「あります。持ってくるので少し待ってください」
引き出しから杖を取り出して彼の元へ戻った。
「イメージが大切だ。頭の中に作りたいものを浮かべて」
「はい」
「魔力を杖に集中させて、呪文を唱える」
言われたとおりにやってみたけれど何も起こらない。
「あれ? 何も起きない」
「少し魔力が散漫になっているな」
「一点集中ですね」
「そう」
イメージして、集中……集中……。マントが徐々にその姿を変えていった。
「おわっ、できた!!」
「うん、いい感じだ。やはり君は素質がある」
「ありがとうございます!」
「これは君が使っていいよ」
「こんな高級な生地のもの、僕にはもったいないです」
「古いものだから気にすることはない。逆に申し訳ないくらいだ」
「いいのでしょうか?」
「うん、記念に」
「ありがとうございます! 大切にしますね」
「今みたいにすれば他のものもできるようになるから」
「練習してみます!」
「よし、竿もできたことだし、釣りとやらに行こうではないか」
「そうですね、行きましょうか」
意気揚々と釣り竿を手にする彼と連れ立って家を出た。
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