北の辺境伯領へ

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 玄関ホールに到着すると人が並んでいて、人のアーチを通り抜けた。 「ルシアン殿、これを」 「何ですか?」 「先ほどお気に召されていた焼き菓子や流行っている菓子などを詰め合わせたものです」 「よろしいのですか?」 「えぇ、是非」   受け取ろうと手を伸ばすとフェリクス様が手を伸ばした。しかし、それを交わすリシャール閣下。 「ルシアン殿にと申し上げているのですが」 「フェリクス様?」    仕方がないと言った顔をするフェリクス様から離れて受け取ろうと手を伸ばすと、すっと顔を近付けられた。 「困ったことがあればいつでも頼ってください。私はあなた様の味方でございますからね」 「ルシアン!」 「はい! あの、ありがとうございます」 「良い旅を」  にっこり微笑むリシャール閣下にもう一度お礼を言ってその場を後にした。 「何を言われた?」 「困った時は頼ってくださいと」 「それだけ?」 「はい」 「誘われたりしなかったか?」 「してないですよ」 「ルシアンはああいった体型が好みそうだからな」 「何を言ってるんですか」 「じっと見ていたじゃないか」 「たしかに見ていましたけど」 「ほら、やっぱり」 「どうやったらこんな風になれるのかなと思っていただけで。やっぱり筋トレですよね」 「……まだ諦めていなかったのか?」 「当たり前じゃないですか! でもね、全然筋肉つかないんです。食べ過ぎが良くないのですかね?」 「好みとかいうわけじゃないんだな?」 「はい、別に」 「俺も鍛え直した方がいいのかと思った」 「フェリクス様は十分立派な筋肉がついているじゃないですか」 「そうか?」 「えぇ。惚れ惚れしちゃいます」 「それならいいが」 「まずはどこに行きましょうか? 湖は近いんですかね?」 「いや、少し離れていたな。この辺りを散策すればいいんじゃないか?」 「そうですね。そうしましょう」  目についた店に入りながら散策を楽しんでいると大きな公園を見つけた。 「わぁ、広い!あそこのベンチに座ってこれ食べましょうよ」  先ほど頂いた袋を掲げると本気で言ってるのか?という様な顔をされた。 「寒くないか?」 「うーん、たしかに寒いですが」  そう、寒くて人も疎らだ。でも、外で食べると美味しいんだよな。 「風邪を引いてしまうぞ」 「そうですよね……」  しょんぼりしかけていると、「あそこのカフェは、どうだ? 窓から景色を眺められるぞ」と提案してくれた。 「ルシアンの好きなものを食べていいし」 「いいんですか?」 「空腹ならな」 「やったぁ。小腹がすいているんです」 「ルシアンの腹はどうなっているんだ」 「へへへ、行きましょう!」  手を引くと呆れたような顔をしながらも「はいはい」と言ってついてきてくれた。
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