離島*

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離島*

 穏やかな波の上に僕たちが乗る船が浮かんでいる。 「ふぁーっ」  もう欠伸が止まらない。釣りをしようとやってきたのはいいものの、程よい揺れが眠気を誘って釣りどころではない。 「また欠伸をしている」 「フェリクス様は眠くないのですか?」 「別に?」 「おかしい。絶対におかしい」  昨晩案の定寝かせてもらえず、ものすごく眠いのだ。どうしてフェリクス様は眠くないんだ……。 「この近くに小さな島があるのだが、行ってみるか? 休憩できるかもしれない」 「いいのですか?」 「構わない」 「じゃあ、お願いします」  フェリクス様が船頭に行き先を告げて、ゆっくりと進み始めた。潮風が心地よい。景色を見る余裕もなくひたすら眠気と格闘していたら「もう着くぞ」と声をかけられた。桟橋に船を停泊させて、島に上陸した。 「わぁ、建物が全部白くてきれいですね」 「ここにある宿屋に泊まるのもいいかもしれないな」 「いいですね!」 「ちょっと元気になった」 「わくわくが眠気を上回りました」 「はは、なんだそれは」 「宿屋を探してみましょう!」  手を繋いで歩き出した。 「確か宿屋が集まった地区があったはずだ」 「なるほど」  あたりをキョロキョロ見回しながら歩いていくと、住宅街を抜けた先に、それらしき建物が見えてきた。 「あの辺りかな?」 「そうなのですね」  坂の両脇に建物が並んでいて、一番上まで行ってみることにした。小高い場所にある宿屋の1つに入ると、気前のいい女主人が応対してくれた。 「新婚さんかい?」 「えぇ」 「いいねー。うちは景色が自慢だから気に入ってもらえると思うよ」 「ここにしようか」 「うん、いいと思います」  いいなと思った直感を信じることにした。明日の昼まで自由に使ってもいいようで、料金を先払いして鍵を受け取った。 「二階の角部屋だからね。ごゆっくり」 「行こうか」 「うん!」  階段を上がり目的の部屋を目指す。白い壁に赤や黄色の扉がついていて、とても可愛い。 「ここだな」  鍵を差し込んで扉を開けると、ベッドとテーブルと椅子が見え、その先にある窓から街と海が一望できた。 「確かに景色がいいですね」 「そうだな」 「あっ、ここから外に出ることができるみたい」  端にある扉を開けて外に出ると小さなベンチが置かれていて、そこに駆け寄り腰を下ろした。屋根があって影になっているからそこまで暑くもない。   「ここに座るととっても気持ちいいです。フェリクス様も座ってみて」  隣に座った彼が「本当だ」と言って笑った。あまりにも気持ちよくてまた眠気がぶり返してきた。 「睡くなってきたんじゃないか?」 「うん、少し」 「ここで眠ってもいいぞ?」 「そういうわけには」 「俺も少し眠ろうかな」 「じゃあ……」  彼の肩にもたれかかって目を閉じるとすぐに夢の中へと落ちていった。 「……んぅ……」 「起きたか?」 「うーん、どのくらい眠ったんだろう」  伸びをして目をこすりながら前を向くと、真っ赤な夕日が見えた。 「わぁ、きれい……」 「起きてくれてよかった。見せたかったから」 「そういえば、初めて出かけた時も夕日を見ましたね」 「そうだったな」 「あの時は何も知らなくて。まさか結婚するなんて思わなかったな」 「俺はルシアンのことを振り向かせたくて必死だったけどな」 「本当に?」 「あの場所を調べたり贈り物をしたり」 「これ、嬉しかったな」  ずっと身につけているネックレスをかざして見せた。 「夕日も未だに覚えているし。また思い出が増えたね」 「そうだな」 「……んっ……すぐにキスする」 「したくなる顔をするから」 「どんなですか」  また顔が近づいてキスをされた。 「俺の上に座って」 「いいですけど」  立ち上がってフェリクス様の方を向き、膝の上に座った。彼の手が頬をなぞって、さらに唇をなぞり始めた。 「何?」 「可愛いなと思って」 「何言ってるんですか」 「今すぐ抱きたい」 「はい!?」 「ここで今すぐ。座ったまま」 「ちょっ……正気ですか?」 「うん。大丈夫、遮蔽してあるから」  もう硬くなってる……。 「本当に見えない?」 「見せるわけないだろう。この部屋全体を防音にしてあるから声も聞こえない」 「そんなことまで……」 「誰にも聞かせるわけにはいかないからな」 「準備万端じゃないですか」 「だから……」 「もう、しょうがないな」  こんな風に求められてしまうと抗えない。 「脱ぐのは下だけでいい?」 「まぁ……いい」
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