食事会へのお誘い

1/2
前へ
/80ページ
次へ

食事会へのお誘い

「あーん。美味いか?」 「美味しい! すっごく瑞々しいです」  お姫様抱っこのような体勢で彼の上に座り、用意してもらったフルーツを食べさせてもらっている。ベッドルームから出てきた僕たちに、みんなから生暖かい視線を向けられたのがついさっき。もう開き直ってこんな状態だ。 「フェリクス様も食べる?」  開いた口にフルーツを入れると指ごと食べられた。 「美味しい」 「指まで食べないでよ」 「おかわり」  また指ごと食べられて、さっきよりもいやらしい感じで舐めてきた。官能的でドキドキしてしまう。 「もう……やめて」 「何を?」  僕の目をじっと見つめながら手の甲に口づけた。 「すぐにそういう雰囲気に持っていこうとするの」 「そういう?」 「だからドキドキしちゃう雰囲気」 「ドキドキしてるのか?」 「してるよ、ずっと」 「可愛いな、ルシアンは」  頬や首筋に口づけられて、先程までの熱がぶり返してきそうになる。 「もう、ダメ」  腰にあった手がするりとお尻を撫でた。 「もう! だめって言ってるでしょ!?」 「チッ……流されなかったか」 「帰れなくなっちゃうもん」 「じゃあ、帰ってから」 「えー?」 「えーじゃない。それにしてもこの体勢いいな。すぐに触ることができる」 「こら!」 「これから座るときはこれだな」  コンコンコンと扉をノックする音が聞こえた。 「どうした?」 「お客様がいらっしゃっています」 「客?」 「ジェラール様とおっしゃられる方でございます」 「あぁ、ここへ案内をしてくれ」 「かしこまりました」 「ジェラール様。どうされたのでしょうね?」 「おい、どこへ行く?」  離れようとした僕の腰をぐいっと抱き寄せた。 「席を外したほうがいいかと思って」 「ここにいろ」 「わかった。でも、この体勢はおかしいから!」 「おかしくない」 「おかしい! おろせー!」  扉をノックする音が聞こえた。 「フェリクス様! いらっしゃいましたよ!」 「そうだな」  全く動じないフェリクス様。ガチャリと扉が開いてジェラール様と目が合った。 「おいおい、どういう座り方だよ」  見られた……。恥ずかしすぎて消えたい。 「フェリクス様、おろしてくださいってば」 「別にそのままでいいよ?」 「だそうだ」  だそうだじゃない。結局膝の上から降ろされることなく対峙することになった。 「どうした?」 「その前にルシアン殿が無事で良かった」 「ご存知だったんですか?」 「ああ。警備隊はあの薬の出どころをずっと探していたからな。俺達のところにも話は来ていた」 「そうでしたか」 「尻尾を掴めた事でいろいろ進展があって、俺の親父も喜んでいてだな」 「それで?」   「二人を食事に招待したいんだと」 「食事に?」 「直接礼を言いたいってさ」 「なるほど」 「フェリクス様は分かります。でも、僕は何もしてないんですが」 「きっかけはルシアン殿だからな。あとは、美しいと騒がれていたから会ってみたいんじゃないか」 「騒がれていただと?」  フェリクス様の声が一段と低くなった。 「あぁ。もう一度会いたいと皆が言っていたぞ」  僕を抱き寄せる手に力が入った。 「くそ、全員の記憶から消し去りたい」 「俺は好みじゃないがな」 「だからお前には会わせたんだ。絶対に好みじゃないと分かっていたからな」 「大変だな、ルシアン殿も。やっかいなのに好かれて」 「そんな事はないですよ」 「そうか、それならいいんだ」 「俺達は今日帰るが」 「知ってるよ。だから急いで来たんだ。昨日はいなかったからな」 「そうか」 「急だし、無理にとは言わん」 「どうする、ルシアン?」 「どうしましょうかね」 「誰が来るんだ?」 「俺たち家族だけだよ」 「それならいいか」 「警戒心強すぎだろ」 「お誘い頂きましたし、行きましょうか?」 「いいのか?」  本当はあまり行きたくないけれど、ジェラール様のお顔も立てたほうが絶対にいいし。家族だけだと言ってるから大規模なものでもないし。大丈夫……なはず。 「はい」 「じゃあ、お邪魔するよ」 「ありがとう。夕方頃来てくれ。待っているから。じゃ、準備があるから行くわ。またあとで」  立ち上がろうとした僕に「見送りはいいよ」と告げて、彼は去っていった。
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!

225人が本棚に入れています
本棚に追加