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食事会へのお誘い
「あーん。美味いか?」
「美味しい! すっごく瑞々しいです」
お姫様抱っこのような体勢で彼の上に座り、用意してもらったフルーツを食べさせてもらっている。ベッドルームから出てきた僕たちに、みんなから生暖かい視線を向けられたのがついさっき。もう開き直ってこんな状態だ。
「フェリクス様も食べる?」
開いた口にフルーツを入れると指ごと食べられた。
「美味しい」
「指まで食べないでよ」
「おかわり」
また指ごと食べられて、さっきよりもいやらしい感じで舐めてきた。官能的でドキドキしてしまう。
「もう……やめて」
「何を?」
僕の目をじっと見つめながら手の甲に口づけた。
「すぐにそういう雰囲気に持っていこうとするの」
「そういう?」
「だからドキドキしちゃう雰囲気」
「ドキドキしてるのか?」
「してるよ、ずっと」
「可愛いな、ルシアンは」
頬や首筋に口づけられて、先程までの熱がぶり返してきそうになる。
「もう、ダメ」
腰にあった手がするりとお尻を撫でた。
「もう! だめって言ってるでしょ!?」
「チッ……流されなかったか」
「帰れなくなっちゃうもん」
「じゃあ、帰ってから」
「えー?」
「えーじゃない。それにしてもこの体勢いいな。すぐに触ることができる」
「こら!」
「これから座るときはこれだな」
コンコンコンと扉をノックする音が聞こえた。
「どうした?」
「お客様がいらっしゃっています」
「客?」
「ジェラール様とおっしゃられる方でございます」
「あぁ、ここへ案内をしてくれ」
「かしこまりました」
「ジェラール様。どうされたのでしょうね?」
「おい、どこへ行く?」
離れようとした僕の腰をぐいっと抱き寄せた。
「席を外したほうがいいかと思って」
「ここにいろ」
「わかった。でも、この体勢はおかしいから!」
「おかしくない」
「おかしい! おろせー!」
扉をノックする音が聞こえた。
「フェリクス様! いらっしゃいましたよ!」
「そうだな」
全く動じないフェリクス様。ガチャリと扉が開いてジェラール様と目が合った。
「おいおい、どういう座り方だよ」
見られた……。恥ずかしすぎて消えたい。
「フェリクス様、おろしてくださいってば」
「別にそのままでいいよ?」
「だそうだ」
だそうだじゃない。結局膝の上から降ろされることなく対峙することになった。
「どうした?」
「その前にルシアン殿が無事で良かった」
「ご存知だったんですか?」
「ああ。警備隊はあの薬の出どころをずっと探していたからな。俺達のところにも話は来ていた」
「そうでしたか」
「尻尾を掴めた事でいろいろ進展があって、俺の親父も喜んでいてだな」
「それで?」
「二人を食事に招待したいんだと」
「食事に?」
「直接礼を言いたいってさ」
「なるほど」
「フェリクス様は分かります。でも、僕は何もしてないんですが」
「きっかけはルシアン殿だからな。あとは、美しいと騒がれていたから会ってみたいんじゃないか」
「騒がれていただと?」
フェリクス様の声が一段と低くなった。
「あぁ。もう一度会いたいと皆が言っていたぞ」
僕を抱き寄せる手に力が入った。
「くそ、全員の記憶から消し去りたい」
「俺は好みじゃないがな」
「だからお前には会わせたんだ。絶対に好みじゃないと分かっていたからな」
「大変だな、ルシアン殿も。やっかいなのに好かれて」
「そんな事はないですよ」
「そうか、それならいいんだ」
「俺達は今日帰るが」
「知ってるよ。だから急いで来たんだ。昨日はいなかったからな」
「そうか」
「急だし、無理にとは言わん」
「どうする、ルシアン?」
「どうしましょうかね」
「誰が来るんだ?」
「俺たち家族だけだよ」
「それならいいか」
「警戒心強すぎだろ」
「お誘い頂きましたし、行きましょうか?」
「いいのか?」
本当はあまり行きたくないけれど、ジェラール様のお顔も立てたほうが絶対にいいし。家族だけだと言ってるから大規模なものでもないし。大丈夫……なはず。
「はい」
「じゃあ、お邪魔するよ」
「ありがとう。夕方頃来てくれ。待っているから。じゃ、準備があるから行くわ。またあとで」
立ち上がろうとした僕に「見送りはいいよ」と告げて、彼は去っていった。
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