食事会へのお誘い

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「よかったのか? 苦手なのに」 「フェリクス様のご友人ですし、苦手だからといってせっかくのお誘いお断りするわけにはいかないです」 「すまない」 「別にいいですよ? 美味しいもの食べれちゃうし」  そう言って笑うとまたキスをされた。 「だから……すぐにキスしないで」 「このまま押し倒したいくらい可愛いんだから仕方ないだろう?」 「重症ですね」 「キスくらいいいだろう?」 「キスだけでも僕はいまだにドキドキしてフェリクス様のことより一層意識しちゃうんです」 「なおさらいいじゃないか。俺のことをもっと意識させたい」 「もう! ダーメ」  ぷくっと頬を膨らませると頭を抱えだした。 「わざとやってるのか?」 「何をです?」 「俺を煽るようなこと」 「は!? してません。どこに煽り要素があったんですか?」 「天然か」 「何言ってるんですか? うわっ」  急に視界が揺れて彼が僕を抱き上げた。 「ちょっ!?」 「このまま抱き上げられるし、やっぱりいいな」 「どこ行くの!?」  器用に扉を開けて何も言わずに歩いていく。もうすぐ食事に行くのにエッチするんじゃないよね!? 「フェリクス様!?」 「なんだ?」 「あの、どこへ?」  階段を登り始めてベッドルームへ行くのではないかと緊張感が高まる。 「衣装部屋だが」   「……へ?」 「着替えたほうがいいと思って」 「あぁ、衣装部屋ね」 「どこへ行くと思ったんだ?」 「衣装部屋ですが?」 「その割にえらく焦っていたな」 「焦ってなんかないですよ」 「そうか? 俺の姫は何かいやらしいことを想像しているのかと思った」 「してません! 姫とか言うな」 「可愛い可愛いお姫様」 「おろせー!!」 「暴れるな」 「僕はかっこいい男になりたいのに」 「……それは無理だな」 「無理じゃない!!」  衣装部屋の扉を開けて、中に入るといつ着るんだろう?と思われる服がたくさん収納されていた。ようやく降ろされて、部屋の中を見ていく。 「たくさんありますね」 「俺の部屋にあるものを一時的に移動させた」 「あぁ、だから僕のものもあるんですね」 「そうだ」  白いフリルのついたブラウスとタイトめのズボンを手渡されて、彼が服を脱がせようとした。 「自分で着替えられます」 「いいじゃないか」 「フェリクス様も着替えてください」  距離をとって服を脱ぐと視線を感じた。 「見てないで着替える!」 「はいはい」    こういう服苦手。いつもは動きやすい格好をしているから余計に苦手意識がある。彼を見ると襟元に金糸の刺繍が入ったシャツを身にまといタイをつけているところだった。  たくさん服があるなと眺めているとワンピースがあるのを見つけた。ここはフェリクス様のものを移動させてきたと言っていた。なぜワンピース? エミリア様のものにしては大きいし、誰のものなんだろう。 「どうした?」 「うわ、ビックリした!」 「真剣に眺めているが……あっ……」 「これ、誰のものですか?」 「いや……あの」  狼狽えてる! やましいことがあるんだ! 「誰のですか? 怒らないので正直に答えてください」 「本当に怒らない?」 「場合によっては怒るかもしれません」 「えぇ……」 「白状しろー!」 「……ルシアンのものだ」 「はい?」 「ルシアンに着てほしいと思って作らせた」  買ったのではなくわざわざ作らせたのか。きっと恐ろしいほどにピッタリサイズなのだろう。 「えーっと、僕は男ですよ?」 「似合うと思って」 「へー。そうですか」  ……見なかった事にしよう。 「さぁ、準備できましたし、行きましょうか」 「なかったことにしようとしているな?」 「僕は何も見てない」 「一度でいいから着てほしい」 「嫌ですよ」 「頼む」  必死に縋るフェリクス様に絆されそうになったけれど、ダメダメと首をふる。 「こんな格好で外に出られるわけないじゃないですか!」 「別に外へ来て行けとは言ってない」 「部屋の中で着るの? それでもみんなに見られちゃうじゃないですか!」 「いや、夜。寝る前に」 「寝る前?」 「寝る前じゃなくてもいいが」 「ん? どういう事ですか?」  寝る前に着るとは? どういう意味なのだろうか。 「この服を来たルシアンを抱きたい」 「……は?」 「可愛いルシアンが可愛い服を着ていたらより可愛くなって……」 「重症だ」 「想像しただけで……」 「やめて下さい」 「絶対に嫌?」 「嫌です。似合わないもん」 「似合うに決まっているだろう? 俺がルシアンのことを考えながらデザインしたんだぞ?」  オリジナルなんだ。いつ作ったんだろう……。 「まぁ、いつの日か」  ため息をついてそう答えた。着ると言わないとこの場を切り抜けられる気がしない。 「本当に!?」 「せっかく作って下さったのに、着ないと勿体ないですし」 「ルシアン!!」  すごいキラキラした目で見てくる……。喜んでくれるならいいか。結局フェリクス様に弱いんだよな、僕。 「いろいろ作らせた甲斐があった」 「え?」 「ん?」 「いろいろ?」 「いろいろ」 「これだけじゃないんですか?」 「うん、まだまだある。製作途中のものも」 「へー」  どれだけ着せたいんだよ。ジェラール様、前言撤回します。僕は厄介なのに好かれてしまったのかもしれません……。
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