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その後ふたりとも2匹ずつ釣り上げて、まずまずの結果となった。
「さてと、食べますか」
「食べる? これを?」
「えぇ」
持参しているナイフを取り出すと彼がぎょっとした顔をした。
「食べることができるのか?」
「大丈夫ですよ? いつも食べてるし」
「そうなのか」
「まずは火を起こしたいので枝とか葉っぱを拾うの手伝ってもらってもいいですか?」
「分かった」
集まった枝や葉っぱに火を付けるとパチパチと音を立てながら炎が大きくなった。次は魚の準備だ。じっと見つめられて、若干やりにくさを感じたけれど、仕方がないと諦めて作業を続けた。
「塩を振りかけるのか」
「はい。多めにつけるのがポイントです」
塩をつけた魚を串にさして火があたるように調整しながら並べていく。
「焼けるまでしばらくお待ちを」
「分かった。ここは誰もいないんだな」
「そうですね。あまり人は見かけないかな」
「静かでいい」
「王宮って人が多そうですもんね」
「あぁ。人が多くて疲れる」
「大変ですね」
「いい場所を知ることができた。ありがとう」
「お礼を言われるほどじゃないんで。あっ、そろそろ良い頃合いですよ。どうぞ、熱いから気をつけてくださいね」
「ありがとう。どうやって食べるんだ?」
「ん? 齧り付くんです」
お手本を見せようと魚にかぶりつくと、彼が目を丸くした。
「豪快だな」
「美味しいですよ」
恐る恐るといった感じで、彼も控えめに齧り付いた。
「おぉ、うまい!」
「でしょう?」
「うん、塩加減も絶妙だな」
「ふふふ、そう言ってもらえると嬉しいです。おかわりありますからね」
「うん」
誰かと食べるなんて想像したことなかったけど、なかなか良いものだ。慣れてきたのか、彼も豪快に齧り付くようになっていた。
「美味しかった。ご馳走様」
「気に入って頂けてよかったです。それじゃ。後片付けをして帰りましょうか」
「そうだな」
火が消えているか念入りに確認して家路についた。
「今日はお忙しい中ご足労頂きましてすみませんでした」
「いや、いい経験ができたから」
「それならよかったです。いろいろ大変でしょうが、頑張ってくださいね。また時間ができたら釣りしてみてください」
「これ、預かっておいてくれないか?」
そう言って釣り竿を手渡された。
「あぁ、いいですよ。持って帰るの大変ですもんね」
「ありがとう。また来る」
「分かりました。不在の時もあるかもしれませんが」
「その時は諦めて散歩だけするよ」
「散歩だけでも気分転換になっていいかもですね」
「じゃあ、また」
「はい、また」
何かを呟いた後、彼の体の周りに光の粒が現れて全身を覆ったかと思うと彼はいなくなっていた。
「転移魔法!」
側近ともなると転移魔法も扱えるのか。王宮にはあんな人たちがわんさかいるのだろうか。第2王子なんて想像もつかないほどにすごい人なんだろうな。それにしても、多分相当な家柄の人なんだろうに全然偉そうな感じがなくて意外だった。あういう人ってやたら威圧的だと思っていたけれど。まぁ、住む世界が違う人だからちゃんと弁えないといけないが。
「さてと、今日教えてもらった魔法の練習でもしようかな」
釣り竿を2本手に持って、少し弾んだ気持ちで家の中に入った。
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