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招かれたウォルケーナ国は僕達の住むディガロ国の東側に位置していて、魔法の先進国として知られている。
「ローブをまとっている方が多いね」
行き交う人たちを物珍しげに見ていると「ぶつかるぞ?」と嗜められた。せっかく行くのだからと少し日程を取ってもらい、今は街中を散策している。
「ローブかっこいいなー」
「買って帰るか?」
「でもディガロではあんまり身につけてる人いないしな」
「ここにいる間だけでも纏ったらいいんじゃないか?」
「フェリクス様もどう?」
「纏えと言うなら構わないが」
「本当に? やったね」
箒に乗って飛んでいる人がたくさんいて、突然近くに降り立ったりするからその度にビクついてしまう。こんな光景も魔力を持っている人が少数のディガロでは見られないものだ。僕も飛んでみたいと羨望の眼差しを送る。
「ルシアン、あの店に入ってみようか」
「うん、そうだね」
店に入ると、ローブがずらりと並んでいて色が違うだけのように見えるけれど、近くでみると刺繍や裏地が違っていて面白い。
「わぁ、どうしよう。どれにしようかな」
一着一着手にしてみるが、なにせ種類が多くてわけがわからなくなってくる。
「黒がかっこいいと思うんですけどね」
「そうだな。刺繍をしてもらえるらしい」
「そうなんですか?」
シンプルな黒のローブにお互いの瞳の色の刺繍糸で名前を入れてもらうことにした。
「どう? 似合う?」
早速身にまとってフェリクス様に問いかけると「ルシアンは何を着てもいい」と興奮気味に言われて気分が良くなった。
「フェリクス様もかっこいいですよ」
「ありがとう。新鮮な気分になるな」
「そうだね。次はどこ行こうか?」
手をつないで、あまり見かけない魔道具や魔法書の店に立ち寄った。
「いたるところに魔法に関するお店があって、さすがという感じだね」
「あぁ、おもしろい。今日はいつにもまして機嫌がいいな」
「フェリクス様とお出かけしてますからね」
久しぶりにこうして出かける事ができるだけでもすごく嬉しくて自ずとテンションが上がっているのだ。
「こんなにも早く遠出できることになるとは思ってもみませんでした。お休みをくださった両陛下には感謝しかありませんね」
「確かに。いやいや了承したが、ルシアンとこうやって過ごすことができると考えれば悪くない」
「嫌々だったんだね」
「当たり前だろう。ルシアンをあの者に会わせたくないからな」
「お会いしたことあるんですか?」
「ある。飄々として人当たりが良さそうに見えるが、何を考えているか読めない曲者だ」
「あの方がねぇ」
美しい少年というイメージしかないけどな。公式の場だと印象が変わったりするものなのだろうか。
「考えたら嫌になってきた」
「僕も憂鬱です。絶対に場違い感半端ないでしょうし、きちんと振る舞えるか不安しかない」
お互いにハァっとため息を付いて、空気がどんよりし始めた。
「ダメです。せっかくの楽しい時間がもったいない。美味しいものでも食べて気分を上げましょう」
「はぁ、少し疲れたな」
「大丈夫ですか?」
「うーん……」
「お仕事を詰め込んでた疲れがでたのかな? 泊まるところへ行きましょうか?」
「そうだな。少し眠ろうかな」
「分かりました。じゃあ、行きましょうか」
本当は疲れていたのに無理させていたのかな。そんな事に気づかずはしゃいでしまうなんて。
「ごめんなさい。気付かなくて」
「いや、いいんだ」
今日から泊まるところは王宮の敷地内にあるらしい。近くまで転移すると、そびえ立つ白亜の城が見えた。
「うわ、大きい」
急に現実感が押し寄せてきて胃がキリキリし始めた。ここに行かなければいけないのか……。
「ご挨拶はできるのでしょうか?」
「あの男とは会わないといけないかもしれないな」
門番に王宮からの書状を見せると何処かへ連絡し始めた。しばらく待っているとこちらへ向かってくる人影が見えた。
「やぁ、ルシアン。待っていたよ」
僕の名を呼ぶそのお方は、あの時出会った美しい少年ではなく僕よりも頭一つ分大きな麗しい男性だった。
「あっ、姿が違うから分からないかな?」
瞳の色が同じ……まさかこのお方が!?
「僕はすぐに分かったよ。姿が違っても暖かいオーラの色は同じだからね」
「あ……その節はとんだご無礼を」
「もう、いいのに。友達だろう?」
「そういうわけには……」
「ルシアンを困らせるのはやめて頂けますか」
「あっ、フェリクスくん。おひさ」
「ご無沙汰しております。シリル殿下」
「あの時は名乗れなくてごめんね」
「いえ!」
「シリルって呼んで?」
「それは……」
「大丈夫。僕がいいって言ってるんだから。何か言ってくるやつがいたら僕が消してあげるから」
怖っ。笑顔でそんな恐ろしいことを言わないでほしい。
「今日はこれからどうするの?」
「お部屋で休もうかと。フェリクス様がお疲れなので」
「ルシアンは? 疲れてる?」
「いえ……」
「じゃあ、僕と遊ぼ。街を案内するよ」
隣にいたフェリクス様が僕の腰を持って抱き寄せた。
「お忙しい殿下にそんなことをさせるわけには」
「大丈夫だよ、フェリクスくん。ルシアンのためなら時間は惜しまないから。君は休んでいなよ」
「いや、あの。フェリクス様が心配なので」
「優しいね、君は。でも、せっかく来たのにもったいないじゃん?」
「いえいえ……」
「ルシアンもこう言っておりますので」
「えー、言わせてるんでしょう? 意外と器が小さいね」
「は?」
「シリル殿下、今日は休みたいと思います。またの機会に是非」
「仕方ないな。部屋まで送るよ」
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